
「歴史 中」 ヘロドトス著,松平千秋訳(岩波文庫)。
中巻は,ダレイオスの遠征を描きます。対ギリシャのいわゆるペルシャ戦争に向けて,次第に叙述は一本の流れに結集していきます。個人的には,ヘロドトスの脱線話の方が好きだったりします。
巻4では,北方のスキュタイ遠征とアフリカは,リビアへの攻撃が描かれます。スキュタイ遠征は,失敗してしまいます。やっぱり騎馬民族は強いですね。
巻5では,イオニアの反乱を制圧し,巻6では,アテネとの間で,マラトンの戦いを繰り広げ,敗北を喫します。
トラウソイ族の人たちは,子どもが誕生した時にはこの世の不幸を思って嘆き悲しみ,死んだ時には,この世の労苦から解放されたとして喜んで葬るということが描かれています。人生観によっては,そうなるでしょうね。
結構残酷な話も,ヘロドトスの歴史には出てきます。古の残酷話をおさえておけば,ある程度の話を聞いても驚かなくなるものです。
中巻は,さらっと終わろうと思うのですが,欠かせない話がいくつか。
スパルタの国制では,王に交戦権があるんですが,その代わり王は前線に立ち,最後に退くのも王であるという制度を取っています。これはフェアですよね。
自衛のための戦争とか,血を流す国際貢献とかいうのであれば,やはり現場の最前線にいるべきですよね。それでこそ,無謀な作戦や無駄な犠牲が防げるというものです。
しかも説得力が増しますよね。日本の首相は未だイラクの土地を踏んですらいないんですから,あきれたものです。
スパルタにおけるクレオメネスとデマラトスの権力闘争の話も魅力的です。スパルタは二人の王がいるというちょっと変わった国制をとっているのですが,クレオメネスが外征に行っている間にデマラトスは,クレオメネスの悪口を流し失脚を狙います。しかし,結果としては,クレオメネスがデマラトスの出生の秘密をテコに,逆に失脚させてしまいます。
出生の秘密というのは,デマラトスの母が彼を出産した時には,王家であったアリストンと再婚してから日が浅かったため,前夫との子ではないかという疑惑です。
まあ,こういう血統がどうかとかいう問題は,現代ではアホらしく思えるのですが,しかしそういう逆境に関わらず政争を繰り広げたデマラトスは,何となく魅力的ですよね。結局,巫女が買収されたりしてクレオメネスが望み通りの託宣を受け,勝利を収めるのですが,クレオメネスも晩年は狂気に囚われ凄惨な死を迎えます。
こういうあたり,脚色したら出色の小説が出来上がりそうです。
(つづく)

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