「殴られる男」
マーク・ロブソン監督,ハンフリー・ボガート,ロッド・スタイガー,マイク・レイン出演(1956,アメリカ)。
ハンフリー・ボガートが,落ち目のスポーツ・ライターを演じる。やり手のボクシング・プロモーターのニックは,大柄な南米出身のトロ・モレノを八百長で売り出そうと,ボガート演じるエディに,話に乗るように依頼する。金に困っていたエディは,この話に乗る。
昔から,興業物にはヤクザものや胡散臭い連中が絡むものですが,その手の世界をうまく描いた作品です。昔はならしたエディも,金のためならしょうがない。どうせ,こんな仕事を引き受ける連中はごまんといるだろう。ならば,俺のやり方でやってやろうじゃないか,こんな感じで自分の良心を説得してしまいます。
エディは,半ば魂を売る訳ですが,完全に心を売り渡した訳ではありません。彼なりの論理の存在が,一種のダークヒーロ的な色合いを伴って,映画を気持ちのよいものにしています。他のプロモーターたちも含めて,ボクサーは消耗品という考え方なのに対し,彼はこれに抗します。
最後の,最早八百長が通じない,チャンピオンとトロ・モレノの一戦も息詰まる描写です。結局は,俺は金では買われないぞと決意するエディですが,それだって別に正義の味方になりたいからじゃない。そういった人間として揺れ動く主人公の描写が,大人の映画だなーと思わせるのです。ちなみに,ゴダールの
「勝手にしやがれ」には,本作を上映している映画館のシーンが出てきます。

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