「地方検事」 ロバート・トレイヴァー著,井上勇訳(創元推理文庫)。
「裁判」(
映画「或る殺人」の原作でもあります)で有名なロバート・トレイヴァーが,ミシガン州の片田舎で地方検事をしていた時分の話を綴ったエッセイ集。14年間も地方検事をしていたんですね。
時代と土地柄を反映して,牧歌的な話が多いです。アメリカでは,法曹一元(皆,弁護士からスタート)故に,地方検事(DA)も選挙で選ばれます。
最初の選挙は,トレイヴァーはこれでもかと言わんばかりにとにかく精力的に動き回りました(「マッチ配りの若者」)。本来の選挙とはこういうもの,それゆえ,ドキュメンタリー「選挙」ではどうしてもちょっとへたれだなーと思ってしまう訳です。
選挙で選ばれると,もちろん地域の声にも応えなくてはいけない。そういった悩みなんかもよく表現されています。
刑事弁護なんかもまだそれほど洗練されていない感じですね。刑事弁護における倫理の確立というのは(その評価は置くとして),最近の話なんですよね。
そういうことを感じさせられる事例がチラホラと見えます。
「これが裁判所の判決である」では,罪を認めた横領犯人が自ら犯行に至る経緯を明らかにし,これが法廷を揺さぶるシーンがあります。情状というものを考えさせてくれるよい事案といえるでしょう。また,こういう話に心動かされる法曹の存在って大事だよなーと思います。
「ウラニウムの大詐欺」は,相手の会社の所有している広大な土地の一部からウラニウムが出たと言って投機話を持ちかける詐欺(採掘後は,マージンを寄越せと迫る訳です)。そんな話を持ちかけながら株の買い占めも仕掛けたりとなかなか巧妙な手段で,唸らされます。
トレイヴァーは,地方検事の仕事を天職と考えていたというか,この地での地方検事を十二分に楽しんでいたという感じで,最後に不運も重なって僅差で再選に失敗するまで地方検事を務めました。
本書は,そんなトレイヴァーの人柄とも相俟って,小粋なエッセイになっています(絶版ですが,入手はそれほど困難ではありません)。

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