「入門・アメリカの司法制度−陪審裁判の理解のために−」 丸山徹著(現代人文社)。
ジャーナリストが書いたアメリカ司法の入門書。5部構成,37章の章立てで米国の司法の状況を活写する。とても分かりやすくまとめられている。難点を言うとすれば,索引があればより良かったという感じ。洋書を読んでいて,そういえばこれって,と思った時に調べられないのはちょっと残念(まあ,章立てから辿りつけばいいのだろうけれど)。
まずは,ウィリアム・ドワイヤーの陪審制度についての言葉が引用されていて,なるほどと思った。
「判事に依存しすぎる裁判システムは怠惰と機能不全を招くだけではなく,腐敗を生む。判事の善し悪しだけで結果が決まるような頼りない可変システムに,われわれの一身を賭けてはならない。」(9頁)
最近の不当判決なんかを見ると,そう思いますよね。
本書を読んでみると結構知らないことが多いことが分かります。例えば,陪審員が陪審を務めた後で,評議の内容を公表することは禁じられていない(45頁)なんていうのは,知らなかった。日本の裁判員制度は異なりますね。
死刑制度についての記述も興味深かったです。米国の現状では,死刑制度と犯罪減少の間に因果関係はなく,死刑制度がある州の方が殺人が多いという事実があります(殺人が多いから死刑を設けたのだと考えると,ニワトリが先か卵が先かの議論に近いですが)。
もっと衝撃的なのが,死刑情報センターによると,死刑の代わりに仮釈放なしの終身刑を導入すれば,経費は死刑制度を維持した場合の6分の1で済むという指摘です(110頁)。死刑制度を維持するためにはかなりの費用がかかっている訳です。ですから,死刑を廃止すると国家の金で凶悪犯を養う結果になるという批判はあたっていない訳です。
刑務所の労働についてのオレゴン州の扱いなんかも参考になりますね。日本では刑務作業に対しては対価と呼べるような金額は支払われず,半ば収奪に近い現状があります。これに対し,オレゴン州では最低賃金を保証し,部屋代,州税,連邦税を差っ引いて受刑者の名前で預金をするそうです(181頁)。
絶対にこの方が公正ですね。刑務所から出た時に一定の預金があれば,再犯率はおそらくかなり下がるのではないでしょうか。日本の現状では,刑務所を出ても結局生活できず戻ってくるという再犯者の問題があります。保護会などの更生施設が貧弱な現状からすると,オレゴン州のような扱いにし,少なくとも自助努力ができるような環境を作ることが不可欠だろうと思います。
まあ,こういうことを言うと働けない人が刑務所に入るようになるとか言い出す人がいますが,社会保障の充実は別の側面でも考えなければならない問題で,仮にそんなことになるとしたら刑務所に入るしかないという選択肢しか存在しない社会の貧困を嘆くべきでしょうね。
本書は,他にも警察の役職の違いや犯罪名などについての英語表記もあって,洋書を読む方にとっても参考になる部分が多いです。

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