「性犯罪の心理」 作田明著(河出書房新社)。
著者は精神科医。タイトル通り,性犯罪について精神医学の見地からエッセイ風にまとめたもの。前半は,やや漫談風でどうかなーと思ったけれど,後半から読みごたえが増してくる感じ。
具体的な事件なんかにも触れているので(ややまとめ方は粗い感じがしますが,一般向けに書かれたためでしょう。),読みやすい。この系統は下手をすると犯罪者を極端に描くだけの一種の猟奇趣味的な本になってしまいがちだけれど,著者が精神科医だけあってそういう危険をうまく避け,安定感があります。
強姦についての記述では,各種の神話についての間違いを端的に指摘していて,参考になります。
例えば,性的欲求不満だけが強姦の原因ということではなく,
「男性性が傷つけられた人々がやがて困難な状況に対応することができなくなり,欲求不満を高めて,破局的爆発に至ってしまうというパターン」が典型的(171頁)という指摘からも分かるように,その暴力性には,病理性がある訳です。
また,多くの場合,強姦する男と被害者とは知り合いであり(178頁),強姦の被害場所は,多くは屋内で,被害者か加害者の家が多い(184頁)。そのため,よくある防犯ポスターなんかは実は典型的な場合について注意喚起の役割を果たしていない(これは,サングラスをかけたいかにも怪しい人物を描いて,知らない人についていかないとアピールするポスターなんかも同様)。
著者の,そもそも強姦とは,性的攻撃というよりも他人の権利の暴力的な侵害であって(170頁),合意に基づかない性交はすべて強姦と考えるべき(177頁)というスタンスはそのとおりだろうと思います。
現行法(刑法177条)では,暴行・脅迫を用いたことが要件となっている訳ですが,この要件については時代の流れも踏まえ,改正するなど立法的な解決を取るか,最低限他の犯罪類型の場合とは別に,その意味合いについてより緩やかに認定していくとかいう方向性が必要かなと思います。
確かに,暴行脅迫の認定が緩やかになれば,虚偽の告訴や冤罪的な事例が増えることも予測されますが,少なくとも痴漢案件なんかと比べても濃密な接触を前提とする訳ですから,それほど不都合は生じないのではないかと思います。
この分野の研究は実はあまり多くないので,本書は貴重です。この種の研究が日本でも進んでいくことが重要だろうと思います。

3