
「遊女の対話 他三篇」ルーキアーノス著,高津春繁訳(岩波文庫)。
ルキアノス(紀元後120年頃−180年以後)は,自らシリア人と名乗っており,ギリシャ語で執筆した風刺作家。時代としては,ローマ帝国の頃の人ですね。
収録作品は,表題作のほかに,「嘘好き,または懐疑者」,「偽予言者アレクサンドロス」,「ペレグリーノスの昇天」が収録され,訳者の解説が40頁ほど付いている。
「遊女の対話」は,タイトル通り遊女たちの短い会話をいくつも納めたもので華やかな雰囲気が漂う。軍人に対しては冷ややかな所なんか,よく表現されていると思います。
本書は,表題作と他三篇が全く性格が違います。他三篇は,非科学的な神秘主義に対する批判の書といった感じになります。
「嘘好き,または懐疑者」は,テュキアデースがエウクラテースのところに行って,客人らと病気の治療法について論じ,遂には呪文や亡霊や不思議な体験について,合理主義的な発想から論駁を加えて一騒動を起こすという話。現代だと絶対ありえないと分かっているので,逆にその想像力に驚いて聞き入ってしまいそうになりますが,この当時はかなりの批判精神がないと,その手の話には立ち向かえなかったでしょうね。
他の「偽予言者アレクサンドロス」は,予言によって荒稼ぎするやり方に対し痛烈に批判を加えていく書だし,「ペレグリーノスの昇天」は,大祭の日に自らを焼いて死ぬと宣言し実行した者に対する批判の書で,同じく表題作とは随分趣が違う感じ。
「偽予言者アレクサンドロス」は,現代の感覚からすると,悪徳商法としてはほどほどで,むしろ努力しているなーと感じますね。騙されている方も,それほど害がなさそうなのが救いですかね。
解説は,当時の哲学の状況について分析を加えた重厚なもので,やっぱり表題作だけが別物になっている印象が拭えません。
とはいえ,そこは古代ギリシャ・ローマ文学,それぞれ楽しく読むことができます。

2