
「軍事力と現代外交(原書第4版)」 ポール・ゴードン・ローレン,ゴードン・A・クレイグ,アレキサンダー・L・ジョージ著,木村修三他訳(有斐閣)。
軍事力と銘打っているけれど,国際政治・国際関係論のテキスト。第1部が「過去から現在へ」と銘打って,各種の安全保障の歴史を近世のあたりから年代順に描写・分析している。第2部では,「歴史,理論,そして実際」と題して,特に,外交交渉,抑止,強制外交,危機管理について考察を深め,第3部で,「制約と省察」と題して軍事力と外交戦略についての倫理とその他の制約について論じている。
外交における軍事力の意味合い(そのコントロールも含めて)にターゲットを置いているけれど,本書では外交の部分に力を入れています。で,外交の問題というのは,なかなか分析が難しいし,多くの本を読んでいかないと分析力もつきにくい。そういう意味では本書は回答を与えてくれるのではなく,そういう視点の一つを提供してくれるという感じ。
特に,歴史の分析については力を入れている。今でも,緊迫した状況になると歴史の一コマを引用して自説の説得力を高めようとする場合があるけれど,将来の事態に過去の歴史が全て当てはまるとは当然ながら言えないし,参照すべき過去の事例も相互に矛盾しているばあいもある。じゃあ,参考にしない方がいいんじゃないかとも思ってしまうが,そういうものでもない。つまり,状況を熟考するための素材の一つであって,そういうものを全て見た上で,さらに考察を深める必要がある訳だ。まあ,言うは易く行うは難しですが。
本書は,翻訳の具合なのか原文の具合なのか,文章のキレが悪く,読みにくい。要約的な文章もあまりうまくまとめられていない。この点が少し残念。交渉の相手国は,ずばり「敵」と表現されています。ここいらあたりは,お国柄という感じがしますね。
本書では,軍事力の行使については,当然ながら否定的です。強力な軍事力を有するアメリカですから,一見するとバックに軍事力を控えた交渉という意味で,選択肢はたくさんあるように思えます。しかし,実は強大な軍事力が足かせになる場合や誤ったメッセージを送ってしまう危険があることや軍事力に対する高度の民主的コントロールが要求されるなど,不確実な要素が増える結果になってしまっていることが示されています。
個人的には,現代的な課題としての世論や政治のあり方の部分に考えさせられました。日本でも,好戦的な言説がネットなんかでは溢れる傾向がありますが,国益という観点から考えると,こういう言論を煽ることは,国が取りうる手段を制限してしまう可能性がある訳です。
本書では,外交的見地から軍事力の行使の問題に触れて具体的に論じていますので,日本における事実上の軍事力を踏まえた現実的な平和のありかたを考える上では有益な素材となるかと思います。

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