
「神曲」 ダンテ著,平川祐弘訳(河出書房新社)。
平川訳は河出文庫3冊でも出ています。一番無難な訳とされていますが,寿岳さんの高揚する文語体も捨てがたい。
名前は有名ですが,読んだ人はどの程度いるでしょうか。合計100の歌で構成された,天国・地獄めぐり。
地獄篇,煉獄篇,天国篇と進んでいきます。キリスト教色が濃いので,そのあたりのアレルギーがあると読み通すのは難しいかもしれません。
地獄篇,煉獄篇では,ウェルギリウスが案内役を務めます。ウェルギリウスは,父親のように優しく接します。まずは,地獄ですが,地獄に落とされた者は基本的に地獄からは抜け出ることができません。ずっと責め苦を受け続けなければなりません。キリストが現れる前の哲学者などは信仰がないということで,地獄に置かれています。アリストテレス学派としては,それだけで噴飯物ですね。とはいえ,これはこれで面白いところも多いです。
時代を反映して,科学的な描写が盛り込まれています。こういったところは今読んでも新しい感覚を感じることができます。
煉獄篇ですが,何が地獄と違うのかといえば,煉獄はそこから抜け出る可能性のある場です。苦行・修行の世界という感じですね。しかも,階層化しています。
ダンテは,なぜか生きているのにこのツアーに招待される訳です。煉獄を超えた先には,ダンテを呼び寄せた昔の恋人,ベアトリーチェが案内を引き継ぎます。
天界(天国)へ行く前に,ベアトリーチェが自分が現世で亡くなった後に現世に残されたダンテが心変わりをしたことを責めるシーンは,何とも厳しいものがあります。
天国篇は想像がつくように,描写が難解になり,キリスト教問答集のようになってきます。ただ,こちらも天文学の世界という感じで一種独特です。光ばかりが出てきて,神々しさ爆発なのですが,果たして天上は本当に魅力的といえるのか。皆さんはどのように感じるでしょうか。
ダンテは,天国地獄ツアーを通じて,自らの政治的失脚を昇華させています。このダンテの毒舌といったところも神曲の特徴の一つだと思います。
ダンテの文章自体はコンパクトですが,注がないとさっぱり分からなかったり,注釈するとやたらと長くなってしまうという難しさがあるので,時間をかけながら少しずつ読むのに向いているかと思います。

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