
「トーマの心臓」 萩尾望都著(小学館文庫)。マンガ。
萩尾望都のマンガも読んでみようと思って何冊か積ん読になっていた(マンガまで積ん読っていうのが,我ながら嘆かわしい)のだけれど,読み始めたら止まらなくなって萩尾望都祭りが続いている。
本作は,初期の傑作。妻を殺した男がわが子を連れて放浪する傑作短編(傑作ばかりが続いて恐縮ですが),「訪問者」のエピソードも,さりげなく織り込んでいます。
寄宿学校の生徒であるトーマが転落死する。トーマは焦がれていたユーリに,自殺であることを示す手紙を残す。そんな寄宿学校に,トーマと瓜二つの少年が入学してくる。
頑なな心のユーリに,トーマのように惹かれていく転入生のエーリク,明るかった頃のユーリを知るオスカー,それぞれの想いが交錯していく。
大変に重厚な作品でした。一日に少しずつ読んでは閉じて,と随分時間をかけて読みました。男子寄宿学校の恋なので,ボーイズラブということになるんだろうけれど,そういう関係が苦手なぼくでも,これは何だか許せるな。
まあ,性愛ということではなく,純粋に愛情ということだから受け入れ幅が大きいんでしょうね。
トーマのように死なれたら,ユーリでなくても戸惑いますね。俺に一体どうしろっていうんだよ,と。しかし,その行為も恨みからではないことが分かってきます。
ユーリの抱えたトラウマやトーマに重ね合わされることに抵抗するエーリク,粋なオスカーとキャラも立っています。
もはや文学作品とでも言うべき一作でしょうね。

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