
「策謀の法廷」 スティーヴ・マルティニ著,白石朗訳(扶桑社ミステリー)。
上下2冊。一応弁護士ポール・マドリアニのシリーズものだけれど,内容的には繋がっているものではないので単体として楽しめる。実はこのシリーズは一冊くらい読んだような気もする。もしかしたら積ん読になっているのかもしれない。いずれにせよ,あーこのシリーズか!と思うような部分はないので独立した一冊として手に取っていい。
国防総省が進める安全保障情報提供ソフトの開発を手がけるソフト会社の女社長が自宅で殺害される。逮捕されたのは,元軍人の警備会社社員。使われた凶器は当人に軍から支給された銃で,射撃方法も短時間に正確に二発撃つダブルタップという手法。
女社長と肉体関係があったことも発覚し,別れ話のもつれが動機と見られ殺人罪で起訴される。彼の弁護を担当することになったのが,ポール・マドリアニと相棒のハリー。マドリアニは,被告人の姿に朝鮮戦争で出兵し廃人になった叔父の姿を見ます。二人はどのような弁護方針を取るのか。
久しぶりのミステリーです。タイトル通り陪審公判に向けての準備と陪審公判の過程を淡々と描いていきます。
与えられた証拠でどのように弁護方針を組み立てていくか,必要な証拠をどうやって集めるか,どうやって切り崩していくか。地味ですが,読み応えがあります。
敵役の検察官は,小人症ながら,極刑事件で負け知らずで「子ども死神」の異名を持つラリー・テンプルトン。陪審の心をがっちりつかんで,様々な罠も散りばめながら弁護側を導き入れます。しかし,何とも大変な弁護です。会社が国防関係のソフトも扱っていた関係で,何でもかんでも機密情報扱いされてしまい,十分な情報収集ができないという事情も加わります。
それでも,残っていた銃やサイレンサーの発見状況から検察側証人に迫っていくマドリアニの尋問のスタイルは,魅せますね(下巻146頁以下)。
結末としては,この種事件としてはこう持っていくかという感じでしたが,きっちりと片をつけたという形の終わりになっています。
よく陪審法廷で弁護側と検察側とが裁判官の前で協議をしますが,本作では法壇のところにホワイトノイズを発生させる装置が付いていて陪審には聞こえないような仕組みになっていることが紹介されています。日本ではまだ見ないですね。

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