
「人間椅子他九編」 江戸川乱歩著(春陽堂)。
乱歩は時々読みたくなる。おそらく夢幻紳士なんかを読んだからだと思う。本書は短編10作が収録されている。
「人間椅子」
有名な本作も実際に読むのは今回が初めて。思っていたのとはちょっと違うけれど,最後にニヤッとさせられる独特の味わい。しかし,椅子の中に入るっていうのは,超重量級の人が座ったり,放屁をされたりといった事態も想定されるので,そういう意味でも本書の構成はなかなかのものなんだなーと思う。
「お勢登場」
かくれんぼをしていて,誤って押し入れの中の長持ちに閉じ込められた男。絶体絶命の状況で,病気を患い先の長くない自分を見限って浮気を続ける妻に発見されるが・・。
こういうのは最初の判断が全てを決めてしまいますね。タイトルからはシリーズ物なのかと思いましたが,そうではないようです。
「毒草」
堕胎を可能にする雑草について公園で雑談していたところ,その話を聞かれ・・・。
「双生児」
映画は見ているんですが,こちらも読むのは初めて。設定の妙によって,翻案されるのが多いのが乱歩の作品ですね。原作は,意外に間抜けな結末です。
「夢遊病者の死」
夢遊病を患う彦太郎。前の勤務先でも夢遊病が出て解雇を受けた。そのため泊まり込みの仕事は止めようと思って求職活動しているんだけれど,事情を知らない父親になぜ仕事のえり好みをしているのかと絞られる。親子ゲンカをした翌朝,父親が亡くなっているのを発見する。
父親と二人暮らしなんですが,親子の会話が何とも泣けますね。
「灰神楽」
双生児と同じく自分の策に溺れる犯人を描く。無駄な工作さえしなければ・・という感じ。
「木馬は回る」
木馬館のラッパ吹きの既婚の格二郎は,券売係のお冬に想いを寄せている。ある日店に来ていた客がお冬の気付かぬうちに恋文らしきものを彼女のお尻のポケットに気付かぬように差し入れた。格二郎は嫉妬と焦燥を覚える。
「指環」
会話形式の文体。指輪の行方。
「幽霊」
彼を付け狙っていた辻堂が亡くなったと聞かされたが,その後男の亡霊に悩まされることになる。明智小五郎が出てきます。
「人でなしの恋」
嫁入りをしたが夫は,夜な夜な蔵に閉じこもっている。不審に思った妻は蔵の様子を盗み聞きし,夫が契りを交わした女と密会しているのを知る。しかし,女は蔵から帰った形跡がない。一体どうなっているのか。
相変わらず短篇集はいいですね。

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