
「SF短編傑作選 きょうも上天気」 浅倉久志訳,大森望編(角川文庫)。
訳者を基点にしたSF短篇集。こういうのもいいかもな,と思って手に取った一冊。
「オメラスから歩み去る人々」 アシューラ・K・ル・グィン
ごく短い短編。サンデル教授が引き合いに出したことでも知られる一作だそうです。ユートピアの地下に閉じ込められた子ども。確かに寓話的です。
「コーラルDの雲の彫刻師」 J・G・バラード
飛行機(グライダー)にのって,雲を切り取って彫刻を作る男たちの話。ロマン小説風。
「ひる」 ロバート・シェクリイ
何でも吸収しながらどんどん大きくなっていく地球外物体。この物体と軍人の戦いという感じの話。
「きょうも上天気」 ジェーローム・ビクスビイ
こちらはSFホラー風。超能力で町の人たちを支配するアントニー坊や。
「ロト」 ウォード・ムーア
はしがきでは,核戦争が勃発したことになっているけれど,何かが起きて,妻と3人の子どもと一緒に混乱する街を脱出しようとするジモン氏の一家。
しかし,危機意識っていうのは人によって様々なのです。切り取ってみると,SFというよりも一人で危機感を高めているジモン氏とついて行けていない家族といった感じで,一種の家族物になっています。続編も読みたくなりますね。
「時は金」 マック・レナルズ
タイムスリップ物。タイムスリップして奇想天外な方法で蓄財を続ける男。その意図は。
「空飛ぶヴォルプラ」 ワイマン・グイン
モモンガのように飛行可能な新生物を作り出した男。知能豊かな新生物のためのコロニーに,彼らの歴史を作り上げて世の中をあっと言わせたいと目論むものの,事態は思わぬ方向に進み・・。
「明日も明日もその明日も」 カート・ヴォネガット・ジュニア
不老不死が実現した未来。人口は溢れ,相続分によって少しでも有利な立場を得たいと思う者たちを横目に見て支配を続ける家長(じいさま)。架空の話なんだけれど,コミカルに生き生きと活写している。
「時間飛行士へのささやかな贈物」 フィリップ・K・ディック
こちらもタイムスリップものだけれど,時間の輪にはまり込んで抜けられなくなる話。皮肉が効いた一作。
バリエーション豊かですね。SFに対する偏見が払拭されるのではないでしょうか。

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