
「戦争と一人の女」 近藤ようこ漫画,坂口安吾原作(青林工藝舎)。マンガ。
本書が出ることをネットで知ってチェックをしていたところ,青空文庫で原作の方を発見したので,それを読んで呟いたら,近藤さんから青空文庫版はGHQ検閲済みバージョンのため,オリジナルも読まれたしと情報を頂いた。
おお!と感動して,さっそく本書と原作の岩波文庫版を手に入れた。
文学とマンガはこういう形で混じり合うのですね。文章をマンガに起こすのではなく,原作を近藤さんが解釈する。そういう流れがよく分かる秀作です。あまり知られていないタイトル作とその他の作品を一つのマンガに統合していくという作業になる訳ですが,確かに複数の視点を折り込むとすれば,マンガというのは相応しい媒体である訳です。
また,安吾のこの作品は確かに余韻を味わう意味でもマンガ化される必要があるような気がします。
原作からすると,これをマンガ化してしまうと結構毒々しい感じになってしまうんじゃないかと思いましたが,そういった心配は杞憂に終わりました。まあそこは,ドロドロした世界もさらりと描いてしまう近藤さんならでは,といったところでしょうか。
欲を言うと,主人公の女は,もっとすれっからしに描いて欲しかった。ぼくのイメージでは,もっと水商売色が強い,毒々しいイメージでした。そんなけばけばしさの中から,悲しみが見えるような,それでいて憎めないような,そんなイメージですね。近藤さんの描き方だと,普通に恋に落ちてしまいそうな清純な感じがしてしまいました。
でも,これはもしかしたらぼくの偏見かもしれない。また,戦中という設定ですからね。戦後のけばけばしさを想像しても,そんな形では戦中は到底いられなかったでしょうから,そういう意味でも大変な労作だと想像します。
原作も含めて,戦争というものに対する通り一遍な,いわば固まった認識を解きほぐしてくれる希有な作品だと思います。

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