

「徹底解剖 秘密保全法」 井上正信著(かもがわ出版)。
今度の臨時国会で急遽審議されることになった,稀代の悪法「秘密保全法案」(特定秘密の保護に関する法律案)。法律案の概要を公表して,わずか2週間のパブコメ期間を設けたのみで,ほとんど議論らしい議論がされていない。
また,肝心の法案の内容は抽象的なもので終始しており,特定秘密の対象も限定されていない(パブコメ募集時の法案の概要については,
こちら。)。
国家秘密が守られるべきだということ自体は,誰も反対しないであろう。問題は,その中身は何か,誰が決めるのか,そしてその情報を,誰からどうやって守るのかが問題となります。
本書は,2012年5月に発行された本だけれども,法案自体は以前から準備がされていたものなので,本書の指摘は今回の法案にもそのまま当てはまります。
著者は,弁護士なので,タイトル通り,法案の法的な問題点について,徹底解剖をしています。
そもそもが情報操作や,情報隠しを行ってきたお国柄で,このような法案を検討する場合には,慎重にならざるを得ません。
本書が指摘するように「秘密が厳格に限定され,一定の時期が来れば必ず全て公開され,秘密にすることが合理的であるかをチェックする第三者機関」の存在を設けるという,最低限の仕組みは用意すべきでしょう(本書26頁)。
また,意外なことですが,すでに秘密保護の刑罰法規は存在しています(自衛隊法96条の2,第122条,刑事特別法,MDA秘密保護法等)。こういった状況からすると,このような法案をさらに作る目的はどこにあるのかを考える必要があります。
本書で触れられているこれまでの情報隠しを思い出しても,戦慄が走ります。
各種の密約問題や,SPEEDIの放射能拡散情報隠し,裏金・談合情報,イラク活動時の航空自衛隊の空輸問題,情報保全隊の情報収集,警視庁のテロ捜査情報の漏洩に絡んで発覚した広範なイスラム教徒の情報収集活動,公安の各種違法調査活動など上げるとキリがありません。
つまり,秘密の保全が,国民から不都合な情報を隠すための手段になりかねないということは明らかでしょう。
また,本書で触れられていないところでいえば,自衛隊の統合幕僚会議で行われた「三矢研究」の前歴などもありますし,それこそ戦前の経験もある訳です。終戦時には不都合な情報は組織的に廃棄してしまった過去もありました。そういう意味で言えば,薬害エイズ問題なんかも情報隠しの体質を示しているといえるかもしれません。
とにもかくにも濫用されやすい制度になりがちで(本家アメリカでも防衛予算を機密確保の点からブラックボックスに入れてしまい,メスが入れられにくくなっています),これに制度的な担保を設ける発想がないことに,政府としての体質は大丈夫なのかと心配になります。
こういった制度は,諸刃の剣でもあって,例えばアメリカから不当な圧力を受けた場合に,秘密として処理することを決めてしまえば国民的な議論によって跳ね返すことができなくなります(例えば少なくとも数年後に公開されるという仕組みを設ければ,無理な合意はしなくなるでしょう)。また,罰則を強化すれば秘密が守られるというのも実に安易な考え方であって,冷戦時代を思い浮かべれば,かえってこのような仕組みを利用されスパイに仕立て上げて失脚させるという策謀も可能になりかねません。
と,議論し出すとキリがないのですが,何と言っても本法案の問題点をざくっと掴むためにも最適な一冊ではないかと思います。事態は深刻な局面を迎えようとしています。注視していきましょう。

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