

「ゼロ・ダーク・サーティ」 キャスリン・ビグロー監督,ジェシカ・チャステイン,ジェイソン・クラーク出演(2012,米)。映画。
9.11後の対テロ戦で,CIAがウサマ・ビン・ラディンの所在を突き止め,殺害するまでを描く。
映画は,国家機密に関する内容をテーマにするため,語られている話をベースに創作されている。ちょっと風変わりな女性CIA分析官マヤが執念でウサマ・ビン・ラディンの所在を突き止めていくという感じの展開だけれど,アメリカ賛美物という訳ではない。
自白を得るために拷問を用いるシーンも登場する。また,後半は要塞と化したビン・ラディンの潜伏する邸宅に特殊部隊が作戦を展開するシーンを出発時からドキュメンタリータッチで長回しで活写している。けれど,報道された通りにコラテラルダメージを発生させながらの作戦で,爽快感よりは何とも言えぬ空しさのようなものを覚える。
監督としては,語りを入れないという視点に徹したのだろう。他方で,映画はあくまでアメリカ側から描いており,ビン・ラディン側の日常のようなものは一切出てこない。何と言ってもアメリカは,対テロ戦争を遂行しているのであって,それを茶化すような表現の自由はないに違いない。
だからこそ,その冷徹な視線の先こそじっくり見つめるべきであって,そこに監督の意図があるに違いない。
実際にビン・ラディン殺害によってもテロはなくなっておらず,パキスタンでのテロ数は9.11前と比べるなら激増しているに違いない。仮にそうだとすると,テロの元締に対するアメリカのここまでの執念は,ある意味シュールとしか言いようがないように感じる。
これが戦争であってみれば,一種の索敵行為なんだろうけれど,他方で,おそらく本格的な戦争でもこのようなことは行われないに違いない(まあ,イラク戦争におけるアメリカの行動はこれに近いものがあった。イラクでも同様にテロによる死者はフセイン政権下とは比べものにならない数に上っているに違いない)。
結局は,たった一人ないし数人の悪の代官に指示されて,テロが行われているのだという考え自体が現実的ではないのだろう(だからこそ,彼らを排除しても問題はそう容易には解決しない。)。
テロの問題を考えると,武力での解決には限界があることが露呈してくるように思う。
描き方は地味だが(作戦展開は派手であるものの),こういう映画が作られることが貴重だろう。

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