10月29日(土)は
湯川村にある
堂後遺跡現地説明会に行って来た。湯川村は会津盆地の中央にあって、北西に
飯豊連峰、東に
磐梯山を見渡せる位置にある。湯川村にある
勝常寺薬師堂は
会津中央薬師と呼ばれ、
国の重要文化財に指定されていて、
中尊薬師如来坐像、左脇侍の
日光菩薩立像、右脇侍の
月光(がっこう)菩薩立像の三尊は
国宝に指定されている。
勝常寺は
9世紀初期に
徳一上人によって建てられたと言われている。堂後遺跡は
21年度から
発掘調査をしているもので、毎年現地説明会を開催しているが、今回初めての参加となる。村内外から歴史・遺跡に興味のある
約40人が集まった。
女性学芸員である
K調査員が説明案内してくれた。以下配布されたレジメをまとめてみた。
21年度は、
村営墓地開発事業にかかる
試掘調査において、古代〜中世の
溝跡が発見された。この溝跡は薬師堂約100m西側を南北に縦断し、薬師堂の北西方面で直角に折れ曲がり、東に延びる状況が確認された。溝跡内の遺物は
14世紀頃の
中世陶器が出土していることから、
再建(応永5年:1398年)された前後の薬師堂に関係する施設である可能性が高い。
22年度は、堂後遺跡の
範囲確認調査を立ち上げ、勝常寺周辺の
埋蔵文化財調査を行なうことになった。4月には
平安時代頃の
遺構や
遺物(土師器(はじき)・須恵器(すえき))、中世の
青磁の破片などが発見された。5月には4つの
トレンチを設定した。
トレンチとは、考古学用語で、遺跡の有無、遺構の分布状況を迅速かつ安価に把握して、発掘調査や遺跡の性質を判断するために掘られる表面の耕作土などを除去するための溝のことをいい、
試掘調査の方法のひとつである。21年度に発見した溝跡の延長した東西方向に延びる溝跡の他に、南北方向に
斜めに延びる溝跡が2本確認された。また、薬師堂の東側には平安時代頃の
建物跡が2〜5棟、
溝跡が4条、方形の
竪穴状遺構1軒、その他
土抗や多数の小穴が見つかった。南北方向に斜めに延びる溝跡は、建物跡群が薬師堂より東へ25度傾いていたことと一致する。
7月には
勝常寺本坊境内での試掘調査が行なわれた。その結果、中世と考えられる溝跡と井戸、
弥生時代後期の
周溝(しゅうこう)を持つ建物跡が確認された。今回遺構に伴って多くの
弥生土器が出土したことは初めてであり、弥生時代後期の周溝を持つ建物跡の発見は、集落跡が勝常寺周辺にも良好な状態で残されていることを示唆している。9月〜10月の勝常寺西側の発掘調査では、
掘立柱建物跡3棟、溝跡6条、土抗20基、小穴多数が確認された。なかでも、
曲物(まげもの:木の板を曲げて容器にしたもの)や箸のように加工したもの、
刀や
鞘(さや)など金属品や多くの木製品が出土したことは注目に値する。
平成23年度は、溝跡の続きを探索するため、勝常寺薬師寺の北東〜東の部分と西側で試掘を行なった。
覚成上人墓(弘治年間(1555〜1558)京都の仁和寺から下向して勝常寺中興の祖となった覚成上人の墓)の北側に設定した11T(トレンチ)からは
大溝跡の続きが確認された。他にも幅が2.5m〜3m、深さが70〜80cmの溝跡が2条発見されている。1本は大溝跡の続きと平行しているが、もう1本は真北より40度東へ傾いて、現在まで確認されている溝跡と一致しない方向を指しているらしい。
新たな発見が新たな謎を生んでしまったという。勝常寺薬師堂の北東にあたる7Tからは南北に縦断する遺構が発見された。この溝跡は勝常寺を区画する溝跡の一部である可能性は高いが、西側の大溝跡と
軸線が一致しないなどの疑問も残るという。
今年の発掘調査では、勝常寺を区画している溝跡が確認され、3年間の調査で勝常寺周辺のことが少しずつ明らかになってきる。
K調査員は、
「繋がらない溝跡があったり、地点によって地形や地質に異なった様子が確認されるなど、より多くの“謎”を生む結果となった」と話す。また、
「勝常寺周辺については、古代・中世だけでなく、現代までの土地利用を含め、地形・地質、あらゆる観点から検討していかなければならない」と話すなど、
夢とロマンは果てしなく続く。自分の趣味を仕事にしている女性考古調査員をふと羨ましく感じてしまった。
●関連サイト
「堂後遺跡現地調査説明会」2010年
13T(トレンチの略)で説明するK調査員と熱心に聞き入る参加者
7Tでの解説風景
溝跡を覗きこむ参加者
覚成上人墓北側の11Tでの説明を受ける参加者
勝常寺について解説する勝常寺檀信徒総代会代表のTさん。

堂後遺跡みどころマップ

このトレンチからは溝跡が斜めに流れているのがわかる。

歴史を誇る国重文の勝常寺薬師堂。国宝の中尊薬師如来坐像が安置されている。

日光菩薩立像・月光(がっこう)菩薩立像の国宝が収められている宝物殿。

昨年3月に建てられた勝常寺本堂。

灯篭はすべてソーラー対応。

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