DELLの20型液晶がジャンクで売られていたので買ったところ、ライン切れによるものとみられる常時表示ラインが複数発生していました。ジャンクで7Kだったとはいえ、くやしいので修理してみました。
なお、はっきりいって普通の人はこんなものを直すよりも互換のパネルを買って入れ替えた方がいいです。すごく手間がかかります。
液晶ユニット
メーカー :DELL
型番 :2001FP(製造終了品、製造は2005年頃)
仕様 :
http://support.ap.dell.com/support/edocs/monitors/2001fp/JA/specs.htm
液晶パネル(写真1):LG PHILIPS LCD製 LM201U04 (MADE IN KOREA)
写真1 LCDパネルのラベル
この液晶パネルはカラムドライバ(縦方向の液晶を制御するIC)やロウドライバ(横方向の液晶を制御するIC)として、写真2のようなTAB(Tape Automated Bonding)またはTCP(Tape Carrier Package)と呼ばれるLSIパッケージが使用されています。
2013年09月10日 追記
・TCP(TAB)の参考資料『LCDモジュール組立』 日本アビオニクス
なお、上記は元からはんだ付けでの接続の場合です。
2015年04月16日 追記
Youtubeにライン切れ状態の動画が上がっていました。
写真2 TCP
TCPは一般的に、ポリイミドなどをベースとしてその下には接着剤層、銅パターン配線層の積層構造となっています。
今回の液晶パネルでは、カラムドライバの端子を導電性ペースト(または異方性導電ペースト(ACP))によってコントロール基板のパターンに接続されていました(図1)。採用されていた導電ペーストは接着力や密着力、堅さがあまりないようで、ポロポロと崩れる感じです(エポキシ系樹脂入れ忘れてる?)接触不良を起こして液晶の常時表示になっていました。この不具合の確認方法はコントロール基板を動かす(ゆする)、TCPを動かす(ゆする)などして、さらに液晶のコントラストを変えるなどすると常時表示ラインが見えるようになりました(写真3)。基本的に、常時表示になっている部分のすぐ裏のTCPが断線しています。
写真3 常時表示ライン
図1 TCP直下の導電ペースト(ACP)
●修理方法
導電ペーストの接触不良で断線状態となっているパターンをはんだ付けして直します。以下、その手順を記載します。
1) TCP接続部への負担を減らすため、写真4のようにホットボンドなどでTCPをコントロール基板に接着しておきます。
写真4 TCPの接着
2) 写真5のように、FPCのポリイミド(茶色い部分)には一部開口があります。これを実体顕微鏡などで見ながらカッターなどエッジの効くもので削って広げていきます。TCPに使われている配線パターンは非常に薄い銅箔であるため、削りすぎてパターンを切断したり変形させてしまわないように注意が必要です。ポリイミドの下にはポリイミドと銅箔を接着する接着剤層がありますが、これも削っておきます。
写真5 TCPの接着
3) 図2のように開口部を拡張したら、さらに図3のようにTCP側の露出したパターンの半分をカッターなどで切断します(切断する方向に注意、TCPの内側方向を切断するのではなく外側方向のパターンを切断)。力を入れすぎてすぐ下のコントロール基板のパターンを切断しないように注意します。切断してコントロール基板側のパターンに導電ペーストが残っている場合は、あとではんだ付けする際のはんだ濡れ性に影響するので十分に除去します。
図2 開口の拡張
図3 TCP側のパターンを切断
4) コントロール基板側のパターンは金メッキされていますが、導電ペーストが塗布されていた時の影響ではんだが載りにくくなっています。このため表面を少し削ってはんだが載りやすいようにします(金めっき上の濃い黄色が取れて本来の輝く金色になればOK)。
5) はんだごては市販されているこて先の太さだとはんだブリッジが発生してしまいます。このため写真6のように先端を細くしたものを適当にでっち上げて使用します。今回は適当な2.54mmピッチDINコネクタの金メッキピンを抜き、錫めっき線を巻いて作ったものです。それをはんだごての先端に巻き付けました。このままでは先端形状がはんだ付けに適当ではないので、ヤスリで適度に削ります。
コネクタの先端を使うよりも、丸ピンヘッダーの長めの物をつかうのもいいかもしれません。ただ、こて先に巻き付けるときに丸ピンはエッジがないのでこて先でスズめっき線が滑ってしまい、巻き付けるのが難しいです。
先端が細く長くなると熱容量が低下するため、はんだの溶けが悪くなります。対策としては、はんだごてもワット数の大きい物を使った方がいいと思います。今回は22Wの太めのはんだごての先に取り付けました。
はんだ付け時にもしブリッジが発生してしまった場合は、はんだを溶かして直すよりもカッターのエッジで削って取ってしまった方が楽な場合があります。
写真6 はんだごてごて先端の改造
6) 環境に優しくありませんがパターンが細いため、はんだ付けには従来のPbSnタイプのはんだペーストを使用しました。はんだペーストがない場合は糸はんだをカッターなどで削った粉、または糸ハンダを溶かして大きめのはんだ玉にして、それを適度な荒さの鉄ヤスリで粉にしてフラックスに混ぜ、はんだペーストの代用とします。ちょっと仕上がりは汚いですが、写真7のように仕上げます。
写真7 TCPはんだ付け仕上がり例
8) 写真8のように実際に映して確認します。TCPやコントロール基板を動かしたり、コントラストを変えても異常がなければOK。コントロール基板を動かすときには筐体などに当たってショートしないように絶縁処理します。
写真8 表示チェック
2013年08月06日追記
その後はんだ付けし直していないTCPも断線し始めたので、残りのカラムドライバを全てはんだ付けして不具合解消。たぶんロウドライバも本当はしなきゃならないんだろうけど…はんだ付け前の加工がしにくい状態なので難しく断念。
2015年04月16日追記
初代ゲームボーイの液晶ライン切れで、液晶側のフレキ熱圧着部分(おそらく異方性導電膜か導電ペースト)部分をアルミ箔を通してはんだごてで熱して再接続させる記事がありました。ただこの動画はおそらく暖めているところが間違っていて、この黒いゴムの帯を外してその上を熱した方が確実かつ早く修理できるのではないかと思います。
tee-suzuki.com 「初代ゲームボーイの液晶ライン抜け修理のこと」
2015年12月25日追記
液晶の異方性導電ペーストや異方性導電シートの断線修理で、
はんだごてにクリップを付けて加熱する方法 もあるとか。
上記と同じ方法のもっと詳しい写真入りの説明