「Isis」 ボブ・ディラン
5月の5日にイシスと結婚したが
あまり長続きがしなかった
それでおれは髪を切り 馬に飛び乗って
間違いを犯さずにすむよう 人の住まない見知らぬ土地へ向かった
闇と光の高地にきた
幹線道が町の真ん中を走っているところだ
おれは右手の杭に馬をつなげ
衣服を洗いに洗濯屋へ入った
隅っこにいた男がマッチを借りにきた
こいつは只者じゃないとすぐに分かった
「何かうまい話をさがしてるのかい」とやつは言った
「金はないぜ」とおれが言うと、「かまやしねえさ」とやつは答えた
二人してその夜 北部の寒気へと向かった
おれはやつに毛布をくれてやり やつはおれに言葉をかけた
「おれたちはどこへ向かってるんだ」と訊けば やつは「4日のうちには戻ってこれるさ」と答えた
「こんないい報せは聞いたことがない」とおれは言った
おれはトルコ石のことを考え 黄金のことを考えた
ダイヤモンドのことを考え 世界一大きな首飾りのことを考えた
峡谷を乗りこえ ひどい寒さをとおりぬけ
おれはイシスのことを考えた おれをひどい無鉄砲だと思った彼女のことを
私たちはいつかまた巡り会うわ、と彼女は言ったものだ
この次に結婚したらいろいろ違っているはずよ、と
ただしおれが踏ん張りつづけ 彼女と友だちでいられたらの話だが
いまだに彼女が話したいちばんいいことは何も思い出せない
おれたちは氷に閉ざされたピラミッドに着いた
やつは言った 「死体を見つけるんだ
そいつを持っていけばいい値段になるぜ」
それでやっと やつの考えていることが分かった
風がうなり 雪が吹き荒れた
おれたちは夜どおし切り出し 朝まで切り出した
やつが死んだとき 伝染病でなければいいがと願ったが
やり続けなければと思った
墓に押し入ったものの 棺はからっぽで
宝石も 何もなく やっと気がついた
やつはただ おれと仲良くしたかっただけだったのだ
やつの話を真に受けるとは どうかしていたに違いない
やつの死体をもちあげ 引っぱり入れ
穴へほうり込んでから もとどおりにふさいだ
早口で祈りを唱え さあ、これでいい
おれはイシスを探しに戻った 愛していると伝えるために
かつて川がよくあふれた草地に 彼女はいた
眠りでまどろみ 寝床が要った
おれは目に太陽をたずさえて東からやってきた
いちど彼女に呪いをかけると それに委ねた
「どこへいってたの?」 「大したところじゃないさ」
「あなた、変わったわね」 「そうかも知れないな」
「どこかへ行ってたのね」 「仕方なかったんだ」
「いてくれるんでしょう?」 「きみが望むなら、そうしよう」
イシス、おおイシス おまえは神秘の子だ
おれをおまえに駆り立てるもの そいつはおれを狂気に駆り立てる
いまでも覚えているぜ おまえのその微笑んださま
霧雨に濡れる 5月の5日に
http://www.geocities.jp/marebit/

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