朝青龍1人が絶対的な強さを見せ付けた黄金時代は、今場所で終わった。これから先、6場所完全制覇、年間最多勝といった記録を伸ばすことは、もはやできないだろう。これから毎場所、朝青龍をおびやかす新たな横綱が控えることになるからだ。

今日の対千代大海戦を制したことで、白鵬の優勝が決まった。本来なら、優勝またはそれに準じる成績で横綱昇進の目安となるはずであったが、今場所は白鵬の所属する宮城野部屋に関係する騒動が週刊誌をにぎわわせたこともあり、協会はなかなかGOサインを出そうとはしなかった。「優勝が決まるまでは、横綱昇進については名言を避けたい」という一貫した態度だった。しかし、白鵬の小細工なしの“横綱”相撲を目の当たりにし、他力士に星2つの差を付けての自力優勝が決まった瞬間、誰もが「この力士は品格力量抜群だ!ぜひ横綱になってほしい」と感じたに違いない。組んで強し、離れても動じない、しなやかで慎重な取り口。それだけ、白鵬の相撲には絶対的な説得力があった。若いなりに苦労をした22歳の大関が、自分の相撲に迷いはない、という境地にようやく辿り着いた一番だった。
横綱という地位が正式に出来たのは、長い相撲の歴史の中で比較的最近(明治時代)であるが、横綱はいわば相撲の神様であると見なされる。それゆえ神の領域を示す注連縄(しめなわ)を模した白綱を締めることが許され、土俵入りでも、他の力士が大勢で土俵を囲むだけであるのに対し、横綱は仕切り線をまたぐことができる唯一の存在でもある。横綱に昇進するためには、ただ強く好成績であるだけでなく、やはり神に相応しい人間であるかどうかも問われる。だからこそ、大関審議委員会はなくとも、横綱審議委員会は存在し、その力量に見合う品格をも持ち合わせているかどうかを審議する役割を果たす。
白鵬は、明日の千秋楽も必ずや横綱に勝って、全勝で横綱昇進に花を添えることと期待する。そして、“暴れん坊横綱”の朝青龍がこれまで築いてきた独特の横綱像を参考にしながら、“静かなる闘志”を胸に秘める全く別の横綱像を模索していってもらいたい。「青白時代」と人の呼ぶ、そんな時期がやってくる。
出島は安美錦相手に回りこまれ11-3。朝赤龍は健闘し12勝目。琴光喜の活躍も評価したい。「十両横綱」の異名を取る把瑠都は13勝目。消化試合をこなす朝青龍が終盤大崩れしたことで、明日の殊勲賞は「該当者無し」になってしまわないだろうか。

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