おそらく相撲を初めて見る欧米の観客は「どうして大相撲には体重別や身長別の対戦がないのだろう?」と思うだろう。欧米発祥の格闘技は、例えばレスリングやボクシングでは体格別で戦う。彼らは同じ体格の選手どうしが戦って初めて、スポーツ競技の中での力の優劣が出ると考えるからである。
ところが相撲にはその発想はない。相撲は日本古来の神事に発祥を持ち、もともとはチカラビトと呼ばれる相撲人達が神や精霊に成り代わって豊作や凶作を占う行事であった。目に見えない神や精霊に体格の差を認める発想などはないのだ。神は神であり、精霊は精霊であり、それぞれに対等であるからこそ、相撲を取ってその結果を吉凶として崇めるという習慣が根付いている。これが大相撲が今でも無差別で戦う競技として息づいている大きな理由である。
この神事に基づく発想のおかげで、今日我々は琴欧洲と豊ノ島の対戦を楽しむことができる。ブルガリア出身の琴欧洲は203cmで角界一の長身、対する豊ノ島は170cmで協会が定める体格検査の規定に達していない関取一低身長の力士である。身長差は33cm。まるで大人と子供である。相撲を見慣れていない人には「こんな小さな力士が長身の力士と当たるなんて、残酷な」と思うかもしれない。しかし、ある程度相撲を見慣れている人にとっては「おっ、これは好カードだな。今日も豊ノ島はひと仕事してくれるか?」と注目することになる。そして、その期待は裏切られない。
頭を下げて下からぶちかました豊ノ島はすかさず脇の甘い大関の懐に入り込み、美しいほどの両差し。そこからマワシを上から取られないように左下手を深くした後、きめに出た琴欧洲に得意の左下手投げをお見舞いした。203cmの丸太はそのままゴロリと土俵に転がった。転がした豊ノ島はしてやったりの涼しい顔。一方、琴欧洲は今日も背中にべったり土をもらい、33cmの差に完敗。大関がこう毎日格下相手に土俵に叩き付けられたのでは、千秋楽まで体がもたないだろう。長身をもてあました大味相撲は改善の必要があると感じられた。
安美錦は栃乃洋の左を封じて出し投げで崩し、最後は白房下に寄り切った。8連勝で給金を直した。白鵬は、若武者。豊真将に相撲を取らせず押し倒し。1敗を守った。新入幕の豪栄道が1敗の好成績。十両では把瑠都が今場所も全勝優勝をしそうな勢いだ。

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