先場所の後味の悪い千秋楽の一番を払拭するように、西の横綱・白鵬が全勝で優勝を飾った。昇進して丸1年、意外にも横綱として全勝優勝するのは初めて。今場所は自身もケガをすることなく、そして対戦相手にケガを負わせることも一度もない完璧な土俵だった。全勝の内容も素晴らしく、決まり手は寄りで7番、上手投げ(出し投げ含む)で5番、そして極め出しと小手投げで決める、安定した強さの象徴のような内容だった。押しも押されぬ大横綱の風格をまとっての白鵬の賜杯拝戴に、誰もが惜しみない拍手を送った。
今場所のような白鵬の悠然とした強さを目の当たりにすると、「あぁ、白鵬は日本で育った横綱なんだな」と思わずにはいられない。白鵬の素材はモンゴルからのものであろうが、それを開花させ、力士としての心身を磨き上げたのは日本の土俵の砂である。白鵬は、土俵の上で“日本人”になった。それに対し朝青龍は、白鵬の先輩のモンゴル出身の力士ではあるが、今でもモンゴル人として相撲を取っている。出身国の壁を乗り越え、国技に自身を溶け込ませることができないのだ。ここ数年、名古屋前後の素行が鬼門となっている朝青龍が、どのように気持ちを切り替えるのか注目だ。
それにしても、猫の目のように注目点が変わった名古屋場所であった。琴欧洲の綱取りの話題で盛り上がって場所が始まったのが遠い昔のようだ。初日の安美錦戦から暗雲が立ち込め、3日目の豊ノ島戦の黒星でこの話題はタブーとなってしまった。その直後、朝青龍が休場、中盤からは安馬の活躍や千代大海のカド番脱出、魁皇の幕内通算勝ち星が大鵬を抜いたことなどが話題になったものの、早くも13日目で白鵬の優勝が決まるという、36度を越える連日の猛暑のわりにはひんやりとした土俵であった。モンゴル巡業を経て、9月場所こそは両横綱が千秋楽まで場所を引っ張る熱い展開を期待する。
殊勲賞はM字テーピングで好調の豊ノ島、敢闘賞は豊響、技能賞は安馬であった。琴光喜も11-4で精一杯の土俵を務めた。稀勢の里と琴奨菊は揃って6-9、普天王は3-12、豪栄道7-8と負け越した。十両優勝は武州山。十両以下格段優勝力士全員が大学相撲の出身者だったことは時代の象徴なのか。

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