「今年は賜杯を抱きたい」と初場所前に語っていた日馬富士。安馬から改名し、大関への脱皮の仕方が分からなかった半年前、まさか日馬富士が幕内最高優勝を飾る日が来るとは、多くの人は思っていなかっただろう。しかし、夏場所は昨年は琴欧洲が初優勝してヨーロッパ大陸に賜杯が渡るという偉業を成し遂げていることからも、日馬富士の優勝は“アリ”なのではないかという機運が高まっていた。
13-1の星数で優勝に王手となった今日、日馬富士も白鵬も絶対に本割では取りこぼすことができない絶体絶命の状況にいた。日馬富士は、昨日白鵬を破っている琴欧洲と対戦。いつものように突き刺すような立ち合いから突っ張りを見せ、相手に圧力をかけた。琴欧洲は左を差して寄り返し、大きな体を日馬富士に当ててきた。ああ、もうダメかと思った瞬間、優勝への執着心から日馬富士は空を掴むほど上がってしまった右手を使って力ずくで琴欧洲を首投げし、14-1の辛勝。後は両横綱の対戦を見守るだけとなった。
本場所のボルテージが最高潮になる横綱どうしの対戦では、こちらも優勝に闘志を燃やす白鵬が朝青龍との差し手争いに勝ち、得意の右をこじ入れながら左上手を取る教科書通りに朝青龍を切り返すように寄り切った。白鵬も14-1で、優勝決定戦で賜杯の行方が決められることになった。
去年の九州場所でもこのカードの優勝決定戦があったが、低い姿勢で足元をおびやかしながら出し投げに出し投げを重ねる日馬富士に白鵬が力技でねじ伏せて勝負を決める展開となった。それを痛いほど覚えている日馬富士は、今場所は同じ轍は踏まないように、低く当たって左下手を取り、いつもより一層低く頭をつける体勢になった。横綱には絶対に上手は与えたくない、その執念から懐にもぐりこみ、白鵬のヒザを押さえながら渾身の左下手投げ!これが決まり日馬富士は悲願の初優勝を飾ることができた。
敢闘賞は最後まで優勝戦線にからんだ13-2の稀勢の里、技能賞は9-6ながら、中日から7連勝した実績が評価され鶴竜が受賞した。千代大海は把瑠都の温情で勝ち越し。14連敗の豊真将は、千秋楽に嘉風に勝って全敗は免れた。十両優勝は玉飛鳥。潮丸が引退を表明し、東関親方となることになった。

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