優勝賜杯は、千秋楽の結びの一番で雲の上の2人に争ってもらうこととして、このブログでは今場所最も成長が著しい鶴竜と、大暴れ中の把瑠都について見てみたい。

モンゴル出身力士といえば、たいてい現地のモンゴル相撲大会で優勝してスカウトされたとか、モンゴル相撲の有名選手だった父親からのバックアップで来日するケースがほとんどであるが、鶴竜の場合は事情が多少異なる。鶴竜の父親はモンゴルの大学で理系科目を教える教授で、日本に行って力士になりたいという息子の夢を叶えるために、入門希望の手紙を同僚の日本語教師に頼んで翻訳してもらった。幸いその手紙は日本相撲振興会の会長の手に渡り、井筒部屋への入門が実現した。その時の鶴竜は16歳、日本語はそれから猛勉強したのだという。鶴竜は、父親譲りの体ではなく、父親譲りの頭脳で日本にやってきたのだ。
今日の相手は、エストニアから2004年に来日した把瑠都。実は、その時もう一人エストニアからやってきた北欧司という力士がいたのだが、北欧司は日本の生活や相撲界のしきたりに馴染めず半年で帰国してしまった。そこからは把瑠都が一人で奮起し、大きな体を生かした強引な取り口ですぐに序の口優勝を果たす。だが当時は日本語がほとんどできず、優勝インタビューにも通訳が必要だった。5年余り経った今では、尾上親方よりも滑らかに話し、日本語でジョークを飛ばす余裕まで出てきた。
今日はこの2人の対戦が、相撲ファンの間では楽しみな一番のひとつだった。8連勝中の把瑠都がこのまま突っ走って優勝戦線に残るのか、あるいは平幕鶴竜が匠の技で把瑠都を食ってしまうのか注目した。立ち合いは互角だったが、鶴竜は把瑠都の懐に吸い込まれ上手を許してしまった。勝ちグセがついている把瑠都、してやったりと小さな鶴竜の体を持ち上げた。ところが、相手は技能賞3回の力士、そのまま黙って吊り出されるはずはない。意識的にか無意識的にか、宙に浮いた鶴竜の足が把瑠都の膝に向けて外掛けを打ったのだ。把瑠都にとっては古傷、まさに弁慶の泣き所を攻められ、巨体はバランスを崩して土俵に沈んでしまった。本人は「吊るんじゃなくて、寄り切るべきだった」と反省していたが、勝ち続けて慢心になっていたからこそ、この奇襲にたじろいだのだろう。この黒星で、把瑠都は初優勝の権利も手放すこととなった。
魁皇・稀勢の里・安美錦・豊真将らが意外にも7-7で、明日に勝ち越しをかける。武州山が6連勝で2桁。明日の本割で朝青龍が白鵬に勝てば、2006年九州場所以来の全勝優勝。

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