一人であろうと、十人であろうと、横綱は横綱であるべきだ。制度上、品格力量抜群である力士なら、ある意味、誰でも横綱になる“権利”を有している。ただ、その“権利”を行使できる人間がごくわずかであることは確かである。力量は、優勝回数や通算勝ち星などで数値化できる点で評価が客観的で分かり易い。朝青龍の優勝25回や7場所連覇などは、彼が力量抜群の力士であったことを物語っている。皮肉なことに、品格なるものは優勝回数や勝利数などから推し量ることが難しい要素で、日本の文化における恣意的な尺度で測られる、非常に主観的な面を含んでいる。朝青龍は品格と力量のバランスが極端に悪かったことが力士生命の短縮を招いてしまったことは、このブログで言及するまでもないことである。

横綱曙は「横綱の品格について、人によって言うことが違っていて戸惑った」と語ったというが、それはむしろ当然で、統一的な品格の規定が設けられてしまったら、それはもう品格ではない。理想の父親像が一人一人違うように、理想の品格なるものは千差万別だからこそ日本文化で生き続けるのである。非の打ちどころがなく畏怖の念をも抱かせるような存在、という曖昧な空気感から生まれる品格の概念――大相撲を深く知れば知るほど、あやふやで、それでいて不動な品格なるものの奥深さに触れることになるだろう。
白鵬は品格と力量のバランスが比較的取れている力士であろう。土俵上での落ち着いた所作、漂う風格、静から動へと移る相撲の速さと強さ、これらを総合的に見ても、日本文化が求める品格ある横綱に近付きつつある。今日も、阿覧を相手に堂々たる横綱相撲。一気に踏み込んで右腕で相手の上半身をかち上げると同時に、左手は低い位置から阿覧の前褌をしっかりと掴む。慌てて白鵬の上手を取りに行った阿覧の左腕がわずかに浮いたところに、すかさず横綱の右も胴にからみつく。一瞬で両差しの体勢になり、あとは相手を気遣うかのように静かに向正面側に寄り切った。自分の力を誇示するわけでもなく、自分以外の人間が土俵にいるのを淡々と退けるかのような所作で、威風堂々とした姿であった。
時天空と猛虎浪の蒙古対決は、がっぷり四つの引きつけ合いの大熱戦に。1分近くの引きつ引かれつの攻防の末、好調の時天空が先輩の意地を見せて猛虎浪を正面側土俵へと寄り切った。これで時天空は自身初の初日からの6連勝。大阪寝屋川のホープ・豪栄道は、昨日の豊真将との一戦の後で土俵下に転落、膝を打って全治1カ月の骨折。今日から休場。客の入りに影響がなければ良いが。わずか70cmの土俵から落ちて骨折する下半身なら、鍛え直した方が良いかもしれない。今日は土佐豊が垣添の右張り手にあっけなくノックダウン。最近、簡単に脳震盪を起こす力士が多いが、アタマも鍛える必要があるのでは。

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