元大関琴風の弟子、尾車部屋の豪風と嘉風が元気だ。年齢は学年で4つほど違うものの、2人は共に大学相撲で活躍し角界に進み、上背が低くまわしにこだわらない動き回る相撲を取るという点でも共通点が多い。今場所は、この2人が共に11-2で活躍してくれているおかげで、辛うじて横綱13日目での優勝決定にならずに済んでいる。本来なら、横綱の優勝に待ったをかける役目を演じなければいけないのは大関や三役陣なのだが、最も成績の良い琴欧洲と栃煌山でさえも4敗の成績であるため、ブレーキ役を尾車部屋の2人の平幕力士が担わなくてはならなくなった。

豪風が大ブレイクしたのは平成20年の初場所。終盤5連勝をして12-3で敢闘賞を受賞し、翌場所の大阪で小結へと駆け上がったことが記憶に新しい。AB型の典型的な性格が土俵で出るのか、柔道の決め技とも見える技能相撲で熱戦を演じる日もあれば、集中力を欠いてあっさりと相手の変化に沈む淡泊な相撲の日もあるのが気になっていたが、今場所は自分でも不思議なくらい身体が動いているようで、相手が軽く感じられて自身初の9連勝となっている。
嘉風が活躍したのは平成19年九州場所。ご当所場所でけれんみのない相撲を見せ、14日目まで11-3の好成績をマーク。千秋楽こそ琴奨菊に送り出されて負けてしまったが、敢闘賞を受賞して一躍注目を浴びた。嘉風はここまでの最高位は前頭2枚目、今場所は前頭11枚目ではあるが、番付運次第では新三役躍進も夢ではない。
横綱の優勝に待ったをかける役目は決して楽ではなかっただろうが、豪風と嘉風はそれを変に意識することなく、自分の相撲に集中して硬さのない動きを見せた。「優勝なんて眼中にありません」と2人は口を揃えて言うが、上位と当たらない平幕力士だからこそ肩に力が入らずに縦横無尽に土俵の上を動き回れるのだろう。
今日の結びの一番、白鵬と把瑠都は今回も右四つがっぷりに渡り合い、土俵中央で厳しい引き付け合いを演じた。把瑠都も身体の重さを武器に抵抗を試みたが攻め手がなく、結局はいつもの流れで横綱が放物線を描くように巨漢を上手投げ――これで大台の60勝に達しただけでなく、早くも年間最多勝も手中に収めた。把瑠都は、横綱の腰が伸びた時、外掛けを試みるなどの余裕が必要ではなかったか。大関陣が何も仕事をしてくれないので、どうやら今場所は13日目に優勝が決まる可能性が高くなった。
魁皇は安美錦を引き落としで破って7勝目。これまでの経験からカド番脱出は可能な星数まで持ってきたので、今場所も大丈夫だろう。日馬富士、北大樹、朝赤龍、玉鷲らが勝ち越し。豊真将は負け越して、またもや三役昇進は幻に。北勝力が頸椎捻挫で今日から休場。幕下は20歳の高安が優勝し、来場所の平成生まれの関取誕生が濃厚に。

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