今日老人ホームで尺八を吹いてきたが、涙が吹き出てどうしようもなくなった瞬間があった。
聞きに来てくれる入居者の中には、身体全体が麻痺していて感情を表情にすらうまく表せない人もいる。「あざみの歌」を吹いていたときだったが、突然そんな入居者の一人のおばあさんが顔を真っ赤にして身体を揺さぶり始めた。気になって吹きながらそのおばあちゃんをじっとみつめていたが、こちらをみつめながら、目が潤んできて、とたんにあふれるような涙が出てきた。
どうやら曲を聴いて、なにやら昔の記憶が鮮明によみがえったみたいだった。うったえるようなその視線はとても落ち着いた優しい目つきで、とても障害者によくある無表情な目つきではなかった。
飛べなくなった鳥のような、歌えなくなったカナリヤのような、なんでもないこと、たとえば歩くこととか、話すことか、笑うことが出来なくなった人が、いかに普段辛い思いをし、どれほどその辛さを表現し、人に聞いて欲しいと願っているかという思いが伝わってくるような気がした。その目つきには「ありがとう」という気持ちが読み取れた。その瞬間吹いている自分が泣き崩れてしまった。
運よく間奏に入り演奏を乱さずにすんだが、涙を流したことをほかの入居者のおばあちゃんたちにもしっかり見られてしまった。みんな事情を察したのかもしれない。不思議なことに間奏後の歌がとても大きな声になって、信じられないくらいの大合唱になった。
音楽が持つ美しい力に接した。

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