原水爆禁止2007世界大会でのスピーチby池田香代子
100人村の池田香代子さんが原水爆禁止2007世界大会でスピーチされた。
これまで、広島、長崎各市の平和宣言を紹介してきたが、行政の長という枠組みのなかでの精一杯の宣言であった。 長崎は久間発言があって、非核宣言法制化要求の文言を入れる決断したときく。
この池田さんのスピーチは「原爆やむをえず」の発言がいかに根拠の無いものであるか、アメリカ無条件支持の日本政府の行動がいかに根拠の無いものであるかを余すことなく、やさしい言葉で語っている。
さすが、いけかよさん、 あらためて感じ入った。

(この写真は2005年の映画人九条の会の時のもの)
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原水爆禁止2007世界大会長崎にご参集の7000人のみなさま、こんにちは。
お疲れでしょうが、たくさんの収穫を全国に、世界に持ち帰られることでしょう。
62年前のこの日この町で地獄の苦しみを味わい、命を落とされたお一人お一人、かろうじて一命はとりとめても、その後、壮絶な肉体的精神的な苦しみのなかを生き、亡くなられたお一人お一人に、心からの哀悼の意をささげます。そして、率先して核廃絶を訴え、凶弾に倒れられた伊藤一長前長崎市長のご無念を思い、心からお悔やみ申し上げます。
また、倦まず核兵器廃絶を世界に訴えてこられたすべての方がたに敬意を表します。とくに、その悲惨悲痛がはたして伝わるものかとの、まことにもっともな底なしの絶望をのりこえ、思い出すだに苦痛な経験をことばや絵やさまざまな表現で、あるいはみずからのお体の傷をあえて見せてくださることで伝えようと努力してこられた被爆者のみなさまに、尊敬と感謝の思いをお伝えしたいと思います。みなさまの崇高な意志と勇気のおかげで、被爆の苦痛苦悩を知らない者たちも、みなさまと思いを一つにすることができます。人類はけっして核兵器と共存できないのだとの思想を、確かなものにすることができます。
けれども、核廃絶にかんし、世界はますます混迷を深めています。NPT核不拡散条約は機能不全の瀬戸際です。たとえば、インドはNPTに加盟しない核保有国であるにもかかわらず、アメリカから原子力の分野での協力をとりつけました。昨年末、日本の国会は、その首相の演説を拍手をもって迎えました。あのとき、核保有にかんして、この国の国会もマスメディアも、新興経済大国インドに懸念を表明することに思い至ったでしょうか。インド国会は8月6日、そしてきょう8月9日には、ヒロシマナガサキの犠牲者のために黙祷すると聞きました。もしもそれが本当であればなおのこと、被爆国日本から核保有国インドにたいし、あのときひとことあるべきだったのではないでしょうか。
またたとえば、朝鮮民主主義人民共和国は、暗黙のうちに核兵器の保有をみとめられそうです。イスラエルが数百発の核兵器をもっていることは、バヌヌ氏の勇気ある内部告発によりはっきりしました。
これらはすべて、アメリカのつごうにより、核兵器の保有を容認されている国々です。
パキスタンの核兵器も、もとはといえばアメリカがその当時の自国のつごうで教育した人びとにより開発されたのでした。
いまアメリカは、核兵器がテロリストに渡るおそれを主張し、その阻止をいわゆる反テロ戦争の最重要課題にすえています。しかし見てきたように、無原則な核の拡散をゆるしたのは、ひとえにアメリカが自国のつごうに拘泥したためです。そして、核の脅威がおそいかかるのは、アメリカの指導者ではなく、核兵器廃絶を願う世界の市民、すなわち私たちです。
膨大な核兵器をもち、さらに戦術小型核兵器の研究開発を再開したアメリカは、そうしたみずからの態度が、他のNPT核保有4カ国に核を捨てるわけにはいかないと考えさせるだけでなく、さらなる核の拡散を招いていることを知っていると思います。知ってはいても、むしろ知れば知るほど、核の力に頼るしかないとの堂々巡りにおちいっているのだと思います。
では、核兵器の行使は人間として許されることだと、アメリカは考えているのでしょうか。
私はそうではないと思います。なぜそう思うのか、お話ししたいと思います。
先頃、ロバート・ジョセフ核不拡散問題特使は、「ヒロシマナガサキへの原爆投下は終戦をもたらし、何百万人もの日本人の命を救った」と語りました。
これまでも、原爆は百万人のアメリカ兵士の命を救った、と言われてきました。そう信じているアメリカ人はいまなお多いようです。けれど、トルーマン大統領が軍部からうけた説明は、原爆を使用しなければ、6万5500人の兵士が死傷する、というものでした。通常、戦死者は死傷者の5分の1から4分の1だそうです。つまり、アメリカ軍は、上陸作戦によって1万3千人から1万6千人のアメリカ兵の命が失われると見ていたわけです。
ところが戦後トルーマンは、この6万あまりと見込まれた戦死者と負傷者をあわせた数を、戦死者だけの数にすりかえました。それによって4倍にふくらんだ死傷者の数25万人を、さらにもう一度、戦死者だけの数にすりかえました。そうすると、死傷者の数はさらに4倍にふくらみ、百万人ということになります。この百万という数字がトルーマンを離れ、いつしか戦死者の数としてひとり歩きするようになった、というのが、「原爆投下が百万のアメリカ兵の命を救った」という神話の本当のところです。1万6千人×4×4×4。4倍が3回なされているわけです。
こうした操作は、無意識に行われたのではないか、とする政治史研究者の見方があります。トルーマンにしろ一般のアメリカ人にしろ、原爆被害のあまりのおそろしさに愕然とし、自分たちを正当化するために、その効果をどんどん大きくふくらませずにはいられなかったのだ、とする見方です。
この夏、「ヒロシマナガサキ」という映画が封切られました。日系アメリカ人が監督したドキュメンタリーです。先ほど発言なさった谷口稜嘩さんも取材に応じておられました。そこで証言している原爆投下にかかわった元軍人も、「戦争を一刻も早く終わらせるために原爆を使ったのだ、同情も後悔もない」と言っています。そう信じなければ、自分のかつての任務の結果に耐えられないのでしょう。その一見余裕ありげな表情は、ひとたび同情したり後悔したら正気を保てなくなるという恐怖におびえているように見えました。
映画は、エノラ・ゲイの副機長が出演する当時のテレビ番組を紹介していました。そのひきつった沈痛な表情が印象的でした。それを放映当時見ていた「原爆乙女」のおひとり笹森恵子さんのことばに、私ははっとしました。被爆の苦しみをなめつくした笹森さんが、原爆を落とした側の人についてこう言われたのです。
「私も涙が出ました。あの方の苦しみが痛いほど伝わってきましたから」
この映画は、この夏1ヵ月、毎日、アメリカのあるテレビ局が放映するそうです。5000万のアメリカ人が見ることになるそうです。さまざまな被爆の実態、被爆者のみなさまが描いた絵、そしてこの笹森さんのことばをはじめとする被爆者のみなさまの証言が、今後アメリカの人びとの間にどのような波紋を広げるか、「あの方の苦しみ」という笹森さんのことばがアメリカの人びとの心にどのようにしみこんでいくのか、注意深く見守りたいと思います。
つまり、アメリカの良心は戦後62年のいまもなお、震えながら眠っているのです。アメリカはヒロシマナガサキの罪におびえています。だから、百万人のアメリカ兵の命を救った原爆という神話や、原爆投下が戦争終結を早めたという間違った見解にしがみつき、スミソニアン博物館での原爆展を開かせず、昨今では原爆投下が数百万の日本人の命を救ったとまで言い張らなければ、罪の意識にいてもたってもいられないのです。
けれどどうつくろっても、原爆投下は「人道に対する罪」、つまり「国家もしくは集団によって一般の国民に対してなされた謀殺、絶滅を目的とした大量殺人その他の非人道的行為」の最たるものにほかなりません。そのことを、アメリカの良心はほんとうは気づいているのだとしたら、ほかでもない日本が、アメリカに救いの手をさしのべるべきではないでしょうか。つまり日本が、アメリカに対し原爆と都市の無差別爆撃の非を認めるよううながすのです。その前に、日本が元従軍慰安婦や強制連行、占領や併合にかかわるすべての罪を認め、謝罪すべきことは言うまでもありません。
それこそが、戦後レジームからの脱却です。戦後レジームとは、外交にかんしては、アメリカの機嫌さえうかがっていればアジアの苦しみは無視していいとする、一面きわめて非道徳的な、平和憲法を裏切る体制です。外から見れば、虎の威を借りた狐国家が、戦後の日本の姿です。内政的には、自国民の苦しみを、アメリカに気がねするあまり「しょうがない」と言ってしまう、道義を欠いた体制です。
原爆や無差別爆撃は人道に対する罪だと認めていれば、戦後62年、アメリカはこれほどの罪を重ねずにすんだかもしれません。ベトナム、アフガン、イラク、そのほかアメリカに攻撃を仕掛けられたすべての国の人びとは、まったく異なる空を、今日この日、見ていたかもしれません。
つまり、世界の現状に、被爆国日本の責任はきわめて大きいと思います。アメリカに対し、原爆投下は許されないことだと言い続けるヒロシマナガサキの道義と勇気をもった政府を、私たちがもちえなかった責任です。そこに、私たちの深い悔恨があると同時に、この悔恨から学ぶことにより、希望もまた見いだすことができます。核のない、戦争のない世界への思いを新たにし、憲法の平和が真に実現する日まで、これからもさまざまな立場をのりこえ手をつなぎ、声を上げていきましょう。ありがとうございました。
世界平和アピール七人委員会メンバー・非核日本宣言共同提唱者
池田香代子
彼女が共同提唱している日本政府に
「非核日本宣言」を求める運動
http://homepage2.nifty.com/thsk/hikakunihonsengen.htm


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