この自由な社会で
(原題: It's a free world...)
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ケン・ローチの新作の上映が渋谷シネアミューズで始まっている。
前作「麦の穂をゆらす風」でカンヌでパルム・ドールにかがやいたケンローチ、ラバティーコンビは、この映画で2007ベネチア映画祭の最優秀脚本賞を獲得した。
ケンローチに関して言えば、「必見でない映画は一本もない」のだが、これまた必見である。しかもとても現代的なテーマなのだ。 間違いなく、今年見た中ではベストである。
テーマはイギリスの移民問題と言うこともいえるが、同じことは世界中で起こっていて、日本ではなぜか移民とは呼ばないけれども、”外国人労働者”が搾取され、不当に低い賃金で働かされ、人間らしく扱われていない、というところで全く同じである。
主人公は息子をかかえるシングルマザー、労働者派遣の会社を一方的に解雇されて、食べていけなくなった彼女は、自らが”労働者派遣事業”に乗り出していく。 そして、がむしゃらに突っ走っていくのだが・・・。
ネタバレになるから書かないけれども、貧しいものがより貧しいものを食い物にしていく、それが可能な”自由”とはなんなのだ、そのなことが許されていいのか・・・、それがテーマなのだ。
今回、ケンローチは主人公の視点では描いていない。 彼女を見守る父のポジションにいる。そして彼女をはらはら見守る周りの人でもある。
このシーンが一番心に残った。
「自分さえよければ、他人は地獄に落ちてもいいのか?」
数少ない台詞の中に、少ないからこそ真実がある。
この父を演ずるコリン・コフリンは役者ではなく本当の港湾労働者。 誰よりも素晴らしい演技をしていた。
彼の世代の労働者が少なくとももっていたモラル、それが若い世代でなし崩しにされていくことがとても悲しい、どうしてなんだ、それがケンローチの思いでもある。
父はこうもいう。
「法定最低賃金は払っているんだろうな?」
ポーランド人の恋人がぽそっともらす、「でもお金がすべてじゃない」。
ジェイミーが誘拐されるシーンがある。誘拐の行為そのものは同意できないが、その誘拐犯がいう言葉、全ての台詞がもっともだと心にすとんと落ちる。
ラストシーンが心に残る。
借金返済のためか、ウクライナであいかわらず労働者を集めている主人公、
応募にきたウクライナの女性がなけなしのユーロを出す。
彼女の顔はイギリスで働けるという希望に輝いている・・・。 なんとも愛おしかった。
彼らを食い物にする自由って、自由社会ってなんなんだ・・。おかしいんじゃないか。
ここに描かれていることはすべて日本にも当てはまる。
研修生の名目での・・・。
今、蟹工船がベストセラーになっている。 某政党には1万人入党したという。
新自由主義、自由と言う名の弱肉強食のいかがわしさが実感されてきているのではないだろうか。
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終わって 食事を済ませて外に出ると、また雷雨だ・・・。 天が怒っている。

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