田舎の町の鎮守のお祭りには、通りの両側に出店が並ぶ。また、その隙間に、店のない商いもなされる。それらの中に、草笛で人を呼ぶ香具師がいて、ビニールの笛を売っていたが、その香具師は、10円硬貨ほどの円盤のビニールを口にくわえ、それでメロディーを吹いていた。両手で、カスタネットを使うこともあった。週刊誌を丸めてラッパを吹くような格好もする。なによりも、そのメロディの凄さに驚かされた。まさに楽器そのものであった。どんな曲であったのか、思い出せないが、その音色は、今も耳に残っている。
草笛の可能性を最初に教えてくれたのが、この香具師であった。この技を受け継いだ人がおられるのか否か知る術もないが、また、子供であったために、その吹き方を教わる知恵もなかったが、世の中には凄い人がいるものだという認識だけは植えつけられたのであった。

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