全集第19巻P176〜
「独立短言」
明治45年7月15日
[中扉]
陸中花巻、北上川の畔(ほとり)に彼女の骨を埋めた故高橋ツサ子の霊に
告げる。
あなたは私と主義を共にし、これを実行しようと欲して、苦闘の内にあ
なたの短い一生を終った。私はあなたを切に想う。ここにこの書をあな
たに寄せ、あなたに代ってあなたの志を天下に述べたいと思う。
願わくは、あなたが私のこの小さな贈り物を受け、また会う日まで、あ
なたの心を安んじてくださることを。
鑑 三
序 文
この書は、明治三十年から同三十三年にわたって、旧「東京独立雑誌」に掲げられた短文を集めて一書となしたものである。
私はその編纂に従事して、独り自ら叫ばざるを得なかった、「私は本当にそのようなものを書いたのか、そのようなものを書いた私は、狂気(マッド)であった、愚頑(フールハーディー)であった」と。
しかし、翻って思う。これは私の当時の確信そのままを綴ったものである。そして確信は狂人のそれであっても、全く捨てたものではないと。
野猪の暴に、時には家猪の及ばない所がある。「エリヤは先に来るべし」である。野人の声が、主の道を備えたのである。私の今日の拙い伝道もまた、十五年前の荒野における野人の言葉によって備えられたのである。そしてこの書は、即ちこの言葉を集めて成ったものである。
解し難い文を改め、無用な刺(とげ)を除いた。この点において、この小集は、旧篇の改正であると思う。願う、読者がこの書によって、時代と現世とが私達の希望を充たすに足りないことを知り、平静の幸福をキリストの福音において求めるに至ることを。
明治45年6月20日 伊香保蓬莱館の一室において 校正を終えて後に記す
内 村 鑑 三
[目 次]
(以下、省略)
完