「殺人者たちの午後」を書いたトニー・パーカーの'90年作品「ロシアの声」を読みました。ペレストロイカ後のモスクワで様々な人々に行ったインタビューをまとめた本です。
全体が8つの章に分かれ、「変革の洗礼を受けた男たち」の章では配管工、ジャーナリスト、同性愛者、失業者、音楽家、チェス名人、「時代に翻弄された女たち」の章では、作家、美人コンテスト女王、超能力者、アパートの管理人、品質管理技師、「徴兵された人々」の章では、第二次大戦の戦車隊長、第2次大戦の従軍看護婦、アフガン帰還兵、徴収兵3人、「医療の現場から」の章では、外科医、看護婦、一般臨床医、「教育の現場から」の章では、女性校長、教師、八年生の4人、十一年生の4人、「自立する女たち」の章では、オフィス応接係、セクレタリー、主婦、人形作り、「一流の職場で働く人々」の章では、グム国営百貨店支配人、ボリショイ劇場舞台係、インツーリスト・ガイド、「夫婦の選択」の章では、トラック運転手と保母補助の夫婦、アル中からのリハビリを続けている男と元看護婦のボランティアスタッフの夫婦がインタビューされています。ただ、この本が出版された年にソ連が崩壊したことで意味をもたなくなったと考えられる章や、もっぱら英国人の読者を対象にした章は、訳者によって翻訳から除外されたのだそうです。
面白かったのは、教育と保険衛生は、質は不十分にせよ、ソ連では生涯保障されていて、住居と就職の権利、老齢になった時保護を受ける権利も法律で認められ、西側におけるように他人を利用し犠牲にして、自らの利益を図ろうとする行為は罰せられると語り、またKGBはどこにでもいて、彼らは自衛のために情報を流しているとも語るジャーナリストの話、同性愛はソ連では法律違反であるという話(おそらく非生産的行為だからでしょう)、勝手に移住することや移動することは許されていないという話、スターリンが国民みんなに住居を持たせるんだという命令を出したので、建築の仕事はその頃はいくらでもあり、女性が現場で働くのも珍しくなかったという話、戦争ほど愚かしい行為はなく、現在ある軍隊は大きすぎると言う多くの声、アメリカのような競争社会にはロシアの人は向いていないという話、避妊は女性の仕事であり、中絶は当たり前のように多く行われているという話などでした。一番強く感じたのは、ロシアの人たちは物の感じ方、考え方において私たちと何ら変わることのないということ、そして誰もが(浮浪者でさえも)皆教養に溢れているということです。現在のロシアはどうなのでしょうか? 気になるところです。ということで、ペレストロイカ以後のソ連の人々の声を聞きたい方には特にオススメです。

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