朝日新聞で紹介されていた、樋口毅宏さんの'10年作品『民宿雪国』を読みました。
「プロローグ」で、国民的画家でありながら民宿の主人として謎に満ちた人生を送った丹生雄武郎が'12年に97才で亡くなり、37册の日記が残されたことが知らされます。
「一、吉良が来た後」は、雄武郎の死んだ息子・公平の友人として、民宿雪国を訪ねて来た吉良が、詐欺師であることが判り、彼は雄武郎の若い嫁と、たまたまそこに居合わせた警官やヤクザらを射殺しますが、雄武郎の落とし穴にはまり、犯された上に雄武郎によって殺される話。
「二、ハート・オブ・ダークネス」は、夫のDVに脅かされている響子と第二の人生を送る先の下調べのために民宿雪国を訪れた僕は、夢のお告げで、墓から這い出して来た男から中庭に埋まっている夥しい死体のことを知らされますが、僕を追って来た響子の夫とその情婦から雄武郎は僕を守ってくれ、僕の性同一障害で悩んで来た半生のことも聞いてくれ、励ましてくれたという話。
「三、私たちが雪国で働いていた頃」は、50年前に半年民宿雪国で働いていた時、阿部定や、原爆で死んだはずの女優、裸の大将らが客として訪ねて来たことを話す、後に買収王となるも、ホテルニューオオタニの火事を起こしたH.Y氏や、やはり一時民宿雪国で働いていた時、雄武郎がヨガで空中浮遊するのを見、また北朝鮮の拉致に協力した後、オーム真理教を創始したC.M氏の話。
「四、借り物の人生(イミテーション・オブ・ライフ)―丹生雄武郎正伝 矢島博美」は、朝鮮人の使用人と父との間に生まれ、父と兄たちの激しいDVにさらされ、兵役中に妻と母を失い、新潟地震で唯一の息子を失い、18年後には盲目になるも、その絵画を発見されて時代の寵児となり、マスコミからは姿を隠し続け、2012年に97才で亡くなった雄武郎の一生を私・矢島博美が語りますが、実際に調べたところ、東大入学は詐称であり、妻はスリであったのを捕まえて手込めにして結婚し、息子は知的障害児で、インタビューの答えは画商が後で作った、有名人の言葉の引用だらけのものであり、その後、37册の日記が発見されてからは、作品は以前客だった山下清のものの剽窃であり、父と兄二人を招いて復讐のために虐殺し、戦時中は朝鮮の工場長をする一方で、多くの朝鮮人女性を手込めにし、シベリア抑留も嘘だったことが分かります。ただ、唯一心を寄せた女性、朝鮮人慰安婦だったハンシュエへの思いは本物で、彼女と一緒に写真を撮ったことを密告されて軍により独房に入れられ暴力の限りを尽くされ、戦後はハンシュエの行方を聞くために、その時の軍人たちを宿に招いて拷問・殺害し、絵画で手に入れた大金は彼女の調査のために北朝鮮政府に送り続けていたことが分かるのでした。
何とも陰惨な話で、『さらば雑司ヶ谷』で受けた印象と同じものでした。無駄な文章がなく、基本的に一人称ながらも読みやすいのが救いだったような気もしますし、実在の人物が多数登場するのも楽しめました。陰惨な話が好きな方にはオススメかも。

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