また昨日の続きです。
エピローグ
〈母・琴音〉
娘の蓮音の逮捕から八年の月日が流れた。その後、二度の公判を経て、最高裁は上告を退ける決定を下し、懲役三十年の刑が確定している。(中略)
幸せは、不幸に勝てない。(中略)
けれども、そうではなかったようだ。(中略)そんなふうに琴音を導いてくれたのは、もちろん、兄の勝であり、彼の妻になった佐和であり、信次郎でもあった。(中略)
あの子が望む望まざるとに関わらず、側にいて、常に助ける用意があることを知らせたい。自分は、勝や佐和、そして、信次郎がしてくれたことを、とうに捨てた娘にしてやりたいのだ。どうか、つぐなう自由を、神様、私に下さい。(中略)
「会ってくれるまで、会いに行く」
帰宅した琴音は、きっぱりと信次郎に告げ、彼は、うんうんと頷くのだった。(中略)
(ようやく面会室に蓮音は現れた。)
「は、蓮音、何、差し入れて欲しい?」
震える声で尋ねると、答えが返って来た。
「Ban。脇の下臭うから。あと、蒲焼さん太郎」
琴音は混乱した。脇の下用のデオドラントと駄菓子。どちらも売店にあった物だ。もっと他に欲しい物はないのか。もっと大事な……。
何も言わないまま、長い時間が過ぎたような気がした。いつのまにか面会終了時刻が来てしまい、蓮音は立ち上がった。(中略)
蓮音は母の様子に気付いて振り返り、ゆっくりと口を動かした。何? と目で問いかけると初めて笑った。
「幸せ」
「え?」
「口に出して言ってみて、ママ」
だから、琴音は言った。幸せ。
「この作品は実際の出来事に着想を得て創作されたフィクションです」という但し書きがしてあるように、実際に大阪で起こった事件をヒントに書かれた作品のようです。360ページを越える量の小説でしたが、私は面白くてわずか4日で読んでしまいました。
→サイト「Nature Life」(
http://www.ceres.dti.ne.jp/~m-goto)

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