高橋洋監督・脚本の'07年作品『狂気の海』をDVDで見ました。とてつもなくチープな作りと荒唐無稽なストーリーに唖然としました。
さて、山田詠美さんとの対談本『文学問答』の中で、終戦後に書かれ、戦争というものがよく分かると河野多惠子さんが言う、ポール・ギャリコの'47年作品『ザ・ロンリー』を読みました。
ロンドン郊外のゲズバラ空軍基地に所属する23才のジェリー・ライト少尉は、戦争神経症のために搭乗勤務をやめてスコットランドに行き、2週間ほど休んでくるようにと、航空医官から言われます。彼はアメリカのアッパーミドルの家族の中で育ち、何不自由なくこれまで過ごしてきました。彼はハイスクールや大学での1、2年間にフットボールをやったように、戦争という「ビッグ・ゲーム」に参加し、リベレーターという愛称でよばれるB-24爆撃機のクルーとともに毎日大試合に取組んでいました。彼が慕うレスター・ハリソン少佐はジェリーに、休暇に女の子を連れていけば、寂しさもまぎれると助言します。そう言われたジェリーは、将校クラブのダンスパーティで知り合い、何回かデートを重ねていたパッチズのことがすぐに頭に浮かびます。彼女は英国空軍婦人補助部隊の一員で、やはり休暇がもらえるとジェリーに伝えていたのでした。ジェリーは故郷に残してきた婚約者のキャサリンのことも考えますが、幼い頃から付き合ってきて、彼にとっての「聖女」であるキャサリンと、別に美人でもないパッチズを比べることはあたわず、パッチズに彼女の存在を知らせた上で旅行に誘うと、パッチズは誘いに乗ります。パッチズは既にジェリーに恋していたのでした。
旅行に出かけた二人は、自転車で風光明美なスコットランドをめぐるうちに、一心同体と思えるほど親しくなりますが、先に休暇が終わるパッチズは人足先に帰ります。残されたジェリーは、パッチズの存在が自分の中でいかに大きなものになってしまっているかを認識し、たまたまスコットランドで会った同郷のウィリアムズがVIPの移動のためにアメリカまで往復するというのを聞き、それに同乗して、キャサリンに婚約の破棄を伝えようと考えます。
故郷に着いたジェリーは、実家に向かう途中で、図書館から出てきたキャサリンを見かけますが、声をかけることができません。実家に帰り、パッチズと出会ったのでキャサリンとの婚約を破棄したいと両親に告げると、母は取り乱します。父は自分が第一次世界大戦の時に「例の」フランス娘と1週間ほどのバカンスを過ごした時のことを語り、それでも故郷に帰って婚約者だった母と結婚し、今の生活を築いたことについて悔いはないと言って、一時はジェリーの怒りを買いますが、やがてジェリーは今までの故郷での生活を思い出し、父への怒りも収まります。結局キャサリンと会う勇気はなく、そのままイギリスに戻ることにしたジェリーでしたが、父は早合点してジェリーがパッチズとの結婚を諦めたとジェリーの母に告げ、疲れ果てたジェリーもそれに同意せざるをえずに、イギリスに帰っていきます。
一方、パッチズはジェリーに婚約者がいるにもかかわらず、彼と旅行に出たことについて自分を責め、他の男性の誘いに乗ってデートをし、その帰りに強引にキスされますが、やはりジェリーへの思いはあきらめられないことを悟ります。そしてイギリスに帰り、混乱したままだったジェリーは、街角でパッチズに出会うと、思わず彼女を抱きしめ、彼女にプロポーズして、それが認められると、彼女を愛していること、キャサリンを愛したことなど今までなかったこと、そしてパッチズと結婚することによって生まれる様々な困難を乗り越えていく覚悟が自分にできていることを知るのでした。
きわめてシンプルなストーリーが、淡々と語られていく小説であるとともに、アッパーミドルとして生きるジェリーの家族の「子供」ぶりが暴かれる小説でもありました。人称が絶えず変わるという珍しい小説でもあったと思います。
→Nature Life(
http://www.ceres.dti.ne.jp/~m-goto/)

0