2010/9/23

シューマン生誕200年に想う  文化・芸術

 ローベルト・シューマンの作品中おそらく最も一般に知られたメロディーは、ピアノ曲《子供の情景Op.15》の中の「トロイメライ」(夢想に耽ること)のそれでしょう。またそれは私生活の上でクラーラとの愛と結婚と、「歌の年」という創造につながる作曲家へのポジティブ・イメージになります。それと同時に、晩年に精神に破綻をきたしライン河へ飛び込んでの自殺未遂、その二年後に46歳にして療養所で逝去したというネガティブ・イメージ。この二つの先入観によって、特に晩年の彼の作品群に対して正当な評価が妨げられてきました。
 しかしシューマン没後150周年を迎えた2006年、そして今年シューマン生誕200周年の2010年を待つまでもなく、既に1960年頃には国際的にシューマンの作品の再評価が静かに、かつ確実に進んでいました。それによって従来あまり光を当てられることの少なかったシューマンの多くの大規模な声楽作品が、演奏会で取り上げられたり、録音されたりして世に紹介されるようになってきたことは、シューマンの素晴らしい声楽作品を愛する筆者にとって大変に嬉しい事です。
  その対象となった作品群をここに列挙してみましょう。
@ Th.ムーアの韻文物語「ララ・ルーク」による《楽園とペーリOp.50》。オラトリオの歴史上、転換軸を打ち立てた。
A 彼が完成させた唯一のオペラ《ゲノフェーファOp.81》。
B ゲーテの「ヴィルヘルム・マイスターの修業時代」から《ミニョンのためのレクイエムOp.98b》。
C M.ホルンの詩によるオラトリオ《ばらの巡礼Op.112》。
D L.ウーラントの詩による詩物語《歌手の呪いOp.139》。
E E.ガイベルの詩による詩物語《小姓達と王女にOp.140》
F ラテン語ミサ通常文による《レクイエム ニ長調Op.148》。
G W.ゲーテの《ファウストからの情景WoO.3》。シューマンの総合芸術作品とも呼ぶべき作品。
  今秋、東京藝術大学ではシューマン・イヤーを記念して、@《楽園とペーリ》を上演します。シューマンは「このオラトリオは祈りの会堂のためではなく、朗らかな人々のためのものです」と書簡に述べている様に、コンサートホールでの演奏を念頭に置いています。(印刷出版に際しては既成概念を避けるためにオラトリオの文字を外しました。)。
  ペルシャの王女ララ・ルークが嫁ぎ先のカシミールへ旅をする道中に随伴者から聞く詩物語のひとつがペーリの話。人生充実期のシューマンが、〈夏の名残のバラ(庭の千草)〉の美しい原詩でも知られるアイルランドの詩人、トーマス・ムーアの韻文物語にインスピレーションを得た、瑞々しい作品です。
  ペーリは花の香りを糧とする大気の妖精で、罪を犯してエデンの園を追われたのですが、天の赦しを得るための贈り物を探す長い試練を経て再び楽園に迎え入れられるまでが、透明感ある東洋的色彩豊かな作品として仕上がっています。天が受け入れた贈り物とは、悪徳の限りを尽くした罪人が、幼い天使のような無垢な子供の祈る姿に、かつては無垢な魂を持っていたはずの遠い日の自分を思い出して流した「悔恨の涙」でした。
  無垢な魂へ想いをめぐらすこと、それは他者への想いやりを失いつつある我々現代人にも通じるテーマに思えるのです。(たたら みちお)
2010年9月15日初出原稿

二期会ゴールデンコンサート 2010年10月2日(土)16:00開演 津田ホール
少しだけ試聴ができます


藝大《楽園とペリ》2010年11月19日(金)19:00開演

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