2011/9/4

高野聖 読書の秋  

ご無沙汰してしまいました。
暦もはや長月。いつの間にか蝉時雨は止み、夕べには虫の音が聞こえる季節です。

山陰地方を縦断し暴風雨をもたらした大型台風12号はやっと日本海に抜けました。
東京でもまだ風が強いですが、直撃された方々は本当に災難でしたね。
私の故郷香川や以前演奏に行ったこともある新宮の方々など、どうしているかなぁと心配していました。

ところで、最近ある新聞で本の紹介エッセイを頼まれて、泉鏡花『高野聖(こうやひじり)』のことを書きました。江戸時代に書かれた上田秋成『雨月物語』の流れを汲むような伝奇小説であり怪奇小説の流れを汲む作品です。
今ではインターネットでも原文を読むことが出来るんですね。
青空文庫 http://www.aozora.gr.jp/

クリックすると元のサイズで表示します

初めて『高野聖』を読んだのは高校生の頃で、原稿を書くために久しぶりに読み返して眺めていたら、目録のところに兄の名前の判子が押してあることに気づきました。年長の兄が読んでいたのを借りて読んだのでしょう。

私は子供の頃、文字を覚えるのがとても早かったので、随分本も読みましたが、幼い頃、祖父が私に平仮名とカタカナを両面に書いた小さな札で遊んでくれて、それをひっくり返しては、声を出して覚えるのが楽しかったのを思い出します。
文字というものが、何か知らない世界を教えてくれるとても魅力的なものに思えていました。

その後、泉鏡花のオペラ『天守物語』の姫川図書之助を演じた時には、かつて読んだ『高野聖』が役作りの根底にありました。
泉鏡花の作品には、美しい妖怪(あやかし)が登場するものも多いのですが、それはどこか人の力では制御しきれないし自然の猛威にも似ているようです。

ところで、『天守物語』の富姫のイメージというと、私は映画『雨月物語』(溝口健二監督が巻のニ「浅茅が宿」をアレンジした名作)で主人公を虜にする妖怪・若狭姫を演じた京マチコさんを思い出します。

『雨月物語』もこの機会に読み返そうと、古い本をひっぱりだしてきました。
一篇一篇が短い9つの短編から成り、流れるような文体も美しいのですが、私が持っているのは角川から出ている本ですが、文章のところどころに原本にあった挿絵も描かれていて、なかなか風情があります。
この巻の一は、白峯というタイトルですが、地理的には香川県坂出市青梅町にある祟徳院の御陵がある場所で、讃岐の国白峯を詣でた西行法師が院の亡霊と論争し、怨恨を慰めようとするところから始まります。

祟徳院は「瀬を早み 岩にせかるる 滝川の われても末に 逢はむとぞ思ふ」と詠った鳥羽天皇の第一皇子ですが、1123年に5歳で天皇の位を譲り受けましが、18年の在位の後に譲位を余儀なくされ、皇位継承問題や摂関家の内紛による保元の乱に破れると讃岐に流され、45歳で没した悲劇の皇子でした。

上田秋成『雨月物語』そして泉鏡花の作品群。彼らが描いてみせる陰の暗闇にじっと眼を凝らすと、やがてその曖昧さの中に妖しい影が確かな存在感を持って現れ、まだ人間の知り得ていない世界の不可思議が浮かび上がってくるようです。

それではよい秋の日をお過ごしください。

クリックすると元のサイズで表示します初出2011_9_4
23



teacup.ブログ “AutoPage”
AutoPage最新お知らせ