2015/3/17

過ぎゆく春に  雑感

そよ吹く風に春の気配を感じます。
梅が満開。そしてもうすぐ桜の季節です。

「月刊ショパン別冊うたと合唱とオペラの雑誌「ハンナ」2015年3月号
ワーグナー特集に原稿を書きました。
掲載頁は「ワーグナー再発見」(22頁)です。

http://www.chopin.co.jp/Hanna/

私のヴァーグナー体験  多田羅 迪夫 
(バス・バリトン)

私がヴァーグナーを舞台で歌った最初の経験は、1970年代に遡ります。8年半をヨーロッパで暮らし、その間にゲルゼンキルヒェン市立劇場で『タンホイザー』ビーテロルフや『マイスタージンガー』の親方歌手の一人銅細工師のフォルツに出演しました。

『タンホイザー』の演奏時間が約3時間10分、『マイスタージンガー』は4時間半の大作ですから、主役のタンホイザーやハンス・ザックスや騎士ヴァルター・フォン・シュトルツィングが、息も絶え絶えになりながらも歌い続ける姿に「ヴァーグナーはまさに声の持久力と身体の体力勝負だなぁ」と痛感したものでした。しかも延々と歌唱部分が続く役の音楽と歌詞は並大抵の準備期間では覚えることが出来ません。通常のオペラの準備に半年もあれば覚えられますが、ザックスのような役の準備期間は、ネイティヴでさえ2年は掛けなければならないと言われていましたから、自分には到底不可能に思えたのです。

けれど私がドイツから1981年に日本に完全帰国すると、83年若杉弘指揮・二期会『ジークフリート』アルベリッヒに続き、84年から87年にかけては新日本フィルが朝比奈隆指揮で臨んだ《ニーベルングの指環》『ラインの黄金』アルベリッヒ、『神々の黄昏』ハーゲン等のヴァーグナー作品を歌う機会を次々と頂きました。性格的な表現が必要なだけでなく、一つの母音に3つの子音を発しなければならない言葉が多いドイツ語の子音さばきが難しいですし、時には巨大な音量となるオーケストラに負けない声量をも持ち合わせていなければならないのですから、大変苦労しましたが、それらの仕事により楽団との深い信頼関係を築くことが出来ました。

その後、私は92年小澤征爾指揮のヘネシー・オペラシリーズで《さまよえるオランダ人》オランダ人役をホセ・ファン・ダムとのダブルキャストで歌い、96年大野和士指揮《ヴァルキューレ》のヴォータン等を経て、へルデン・バリトンの役へと移行してゆきました。そうするうち、二期会がベルギー王立モネ劇場と提携した《マイスタージンガー》で、ついにハンス・ザックスを歌う機会を頂きました。事前に想像した通り、夥(おびただ)しい量の暗譜と、作品解釈の奥深さ、声のスタミナをいかに確保するかに挫折しそうな日もありましたが、歌い終えた時の充実感はそれまでの苦労を吹き飛ばす、最高の喜びを与えてくれました。

第3幕、ヨハネ祭が行われるペグニッツ河畔の野原に民衆が大勢集まり、マイスタージンガー達の入場の最後にザックスが現れると、民衆は起立して「目覚めよ、朝は近づいた」のコラール(歌詞は史実のハンス・ザックスの《ヴィッテンベルクの鶯》に基づく)を合唱して称える時、J.S.バッハのカンタータ第140番《目覚めよと呼ぶ声あり》を連想しながら、その音楽に魂を揺さぶられ、ザックスの「友よ、楽しき青春の日に、こよなく幸せな初恋の衝動の中で、美しい春の歌を歌うことは誰にもたやすい。しかし夏、秋、冬の風雪を耐え、それでも尚、美しい歌を創るものこそがマイスターなのだ」という歌詞には、巨匠ヴァーグナーの情熱と理想が感じられ、その歌詞に心底感動しながら歌いました。この体験は素晴らしい思い出として今も記憶に残っています。

ヴァーグナー楽劇の大きな特徴は、作曲家自身がその台本を書いたことです。他の作曲家が台本作家に韻を整える作業を依頼しなければならないのがほとんどだったことを考えると、ヴァーグナーの偉才ぶりがよくわかりますし、彼の台本は、登場人物の心理描写と劇的な構成に大きな力を発揮しています。より演劇性の高い表現として「言葉を語って聞かせる」事が重要であり、《ヴァルキューレ》第2幕2場でのヴォータンの長い独り語りはその好例なのですが、声をひそめて苦悩を「語る」と思えば、怒りや嘆きの表現には言葉の明瞭度と共に大きな声量を要求されます。

つまり、「声の変化」の要求にどう応えるかが、実はヴァーグナー作品を歌う際の大切なポイン
トなのだと思います。(たたら みちお)


註)日本ではワーグナー、ワルキューレと書かれることが多いが、本文では、ドイツ語の本来の発音に忠実に、ヴァーグナー、ヴァルキューレと表記致しました。


多田羅迪夫 (バスバリトン)
たたら みちお
東京藝術大学及び同大学大学院音楽研究科修士課程(オペラ専攻)修了後イタリア留学。ドイツ・ハイデルベルク市立歌劇場専属歌手、ゲルゼンキルヒェン市立歌劇場専属歌手等を経て1981年帰国。平成26年度香川県文化功労者。(公財)東京二期会 常務理事・二期会幹事長、東京藝術大学名誉教授。http://green.ap.teacup.com/musik/


2015年3月4日(水) ハクジュホールにて
「二期会オペラ研修所 第58期マスタークラス」修了試演会が無事終了しました。

私が東京藝術大学に入学の為、故郷の香川(坂出)から上京したのは、思えばもう半世紀も前の事です。

演奏家として長らく歌い続けて来られたことは感慨深く、応援し支えてくださる皆様に心より感謝申し上げます。

マスタークラスを修了した若き声楽家たちの未来にも沢山の幸あれと願っています。



http://www.nikikai.net/concert/20150304.html

http://www.nikikai21.net/blog/2015/02/post_556.html



二期会ニューウェーブ・オペラ劇場
『ジューリオ・チェーザレ (エジプトのジュリアス・シーザー)』
オペラ全3幕 日本語字幕付き原語(イタリア語)上演
台本:ニコラ・フランチェスコ・ハイム
作曲:ゲオルク・フリードリヒ・ヘンデル

会場: 新国立劇場 中劇場
2015年5月23日(土)17:00 24日(日)14:00

こちらも若き優秀な歌手たちが出演する本公演への登竜門。
このシリーズから沢山のスターたちが生まれています。

http://www.nikikai.net/lineup/caesar2015/index.html



私はといえば、東日本大震災から4年目の2015年3月11日、津田ホール閉館に伴い、
シリーズ最後となった「二期会ゴールデンコンサート」が終了致しました。
復興には時間がかかりますが、音楽の力で出来ることを継続してゆこうと
決意を新たにしています。

二期会ゴールデン チャリティー・ガラ・コンサートコンサート  終了致しました。
http://www.nikikai21.net/concert/golden48.html

http://www.nikikai21.net/blog/

東日本大震災からの復興を祈念してチャリティー・ガラ・コンサート
 2015年3月11日(水) 19:00開演 津田ホール
多田羅演奏曲:ワーグナー 楽劇『ニュルンベルクのマイスタージンガー』より
ハンス・ザックス「迷妄のモノローグ:思い込み!錯覚!至る所ではかない幻想だ!」ほか



今月はまた故郷での声楽講座、そして来月は台湾へ。
「日々是好日」、音楽とともに毎日を大切に過ごしてゆきたいものです。



出演予定
■歌芝居『魔法の笛』ザラストロ役:多田羅迪夫
【作曲】モーツァルト、林光 【訳詞】林光 【台詞・構成・演出】加藤直
2015年9月3日(木)〜13日(日)俳優座劇場(六本木)
問合=オペラシアターこんにゃく座 電話 044-930-1720 



クリックすると元のサイズで表示します ハンス・ザックス Photp;K.MIURA

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2015年3月11日 津田ホール 終演後に
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