〜深まる謎〜
このページは
巨悪に挑む?(上)の続きです。
参考画像:豊平館前の池2005年夏撮影(エッセイとは無関係)
木曜夜の8時は、私が担当するラジオ番組の放送日である。B公園を話題とした1時間番組だ。当然、この夜は「消えた鯉」の話題が中心となった。
考えてみれば、鯉が消える筈はない。死んだと思うのが普通だ。
「B池で鯉の死骸を見た人はいませんか?」
と呼びかけたが、残念ながら目撃情報は得られなかった。
なぜだろう? 疑惑はますます深まって行く。
放送が終わると「のどかわいたね」と言ってゲストさんと二人でビールを飲みに行った。 話も弾み時間を忘れ、帰りが少し遅くなった。
家に帰るとQPが怒っていた。 「あんた、何処に行ってたの! 新聞社から何回も電話がかかって大変だったのよ」
11時過ぎたばかりだが、早寝のQPにとっては真夜中だ。寝ばなを起こされて機嫌が悪い。 しかし、何の電話だろう? 何か圧力のようなものを感じた。捉えようのない不安を覚え、なかなか寝付けなかった。
寝不足の朝を迎えた。不安を解消するには、「行動」しかない。
C記者にコンタクトをとろうと新聞社に電話したが不在だった。
帰ったら電話してくれるように頼んで切ったが、その後連絡はなかった。
メールを送っても返事は来ない。こんなことは初めてだ。
今までは彼が積極的に動いて、私は協力する立場だった。
一体何が彼を変えたのか? 解せないことばかりだ。
ともかく、大量の鯉の死骸を見た「証人」を探すのが先決だ。記者と連絡が取れても「証人」がいなくては、記事にすることはできない。
三日間必死に探して、やっと「証人」を見つけることができた。
「鯉は100歳まで生きるといわれているんだよ。でっかい死骸がゴロゴロしてたぞ! 何でこんなB公園始まって以来の大事件が新聞にもでないんだ」
おじさんは怒っていた。D新聞に電話をかけたが、何の反応もないと言う。
「差し支えなければ電話番号を教えて下さい。D新聞社のC記者がこの事件の担当です。お宅に連絡させますから、今いったことを話して下さい」
おじさんは喜んで電話番号を私の手帳に書いてくれた。
「これにて一件落着」という気分で、意気揚々として新聞社に電話した。
C記者はなぜかつかまらない。
メールを何回も出して「証人」を見つけたことを伝えたが、返事がない。
一体どうしたことだ!
C記者は20代の駆け出しだ。上からの圧力がかかったのかも知れない。 しかし、なぜそのようなことをする必要があるのだろうか。
記者は「『証人』を見つけてくれたら、徹底的にやる」と言いながら、
なぜ連絡をしてこないのだろう。
放送日の夜にかけてきた電話は一体何だったのだろうか?
謎は深まるばかりだ。
あれから2ヶ月たち季節は夏になっていた。 B公園をいつもブラブラして、いろいろな人と立ち話しているおじさんがいる。 ちょっとやくざっぽい感じなので、仮に親分と呼ぶことにする。
私もときどき話すことがある。その日はB公園での自殺の話をしてくれた。
「ここではな、毎年のように自殺があるんだ、今年も二人死んでいるんだ。日本庭園とボート小屋近くであったな。 あんたは知らないと思うが、自殺は絶対に新聞にでないよ」
「新聞に載らない話はもう一つありますよ。B池での鯉の全滅です」と言って、一部始終を話しはじめると、親分の表情がみるみる険しくなって行った。 ああ、言うんじゃなかったと思っても、もう遅い。しかけたものは途中で止められない。
「あんたかい?ラジオでぺらぺら喋ったというのは! みんなが迷惑しているんだ。どうゆうつもりで嗅ぎ回っているのか知らんが、生活がかかって
いる者もいるんだよ」
犬じゃあるまいし、嗅ぎまわってるなんて失敬じゃないか。
こんどはこっちの頭に血が上った。
「子供たちが池の主と呼んでいた鯉が、全滅してしまったのです。100歳を超えた鯉もいたかも知れません。原因が分からないから心配なのです。
いいですか、鯉がいなくなっただけでは、すまないのですよ! この公園が壊れ始めているのです。 役所は無関心だし、新聞は知らん振り。
こんなことで本当にいいのですか!」
それからしばらく激しいやり取りが続いたが、お互いB公園の「陰の責任者」と自認する者同士、話している内にだんだん分かり合い、落ち着いて来た。
「あんたの言うことも分かる。俺だって鯉がいなくなってガッカリしているんだ。 本当のことを教えてやるから、誰にも言うなよ」
と念を押しながら、一部始終を語り始めた。
その内容は経験した者でなければ語れない、多くの「事実」を含み、私の疑問は全て解消された。
「驚くべきこと」はその内容だが、いくらなんでもここに書く訳には行かない。しかし、「謎を解く」と読者に約束した以上、いつの日か書かなければならないだろう。
「おいおい、何でこんなところで止めるんだ」
「ここで区切りをつけて、関係者の反応をみたいのです」
「フィクションだろう。関係者なんかいるわけないじゃないか」
「そうですね。フィクションでした……」
「しっかりしろよ。強い男になったんだろう」
「それも*フィクションです」
*フィクションとは「作り事。虚構。作者の想像力によって作り上げられた架空の物語」
次回は
「巨悪に挑む?(完結編)〜謎を解き巨悪をたたく〜」へと続く。

0