討論当日のエピソード追加。
<反対討論>
22日は2月議会最終日。本会議で各議案への最終的な賛否を明らかにする機会です。僕は今回はいくつか反対の立場にたちました。
その中で、懸案の国民保護法関連の2議案について反対討論をおこないました。
反対討論に先立ち、各常任委員会委員長より各委員会での議論の報告がおこなわれました。
この国民保護法関連の議案を審議した市民厚生常任委員会の報告では、「国民保護協議会委員の人選にあたっては軍事に精通した人材の活用を望む」との意見が紹介。
聞きながら、ぬぬ、なんだとっ!と思い、急きょアドリブで、下記の原稿中にあるように、「『有事』や『国民保護』と聞けばすぐに『軍事に精通』と言い出すのは極めて短絡的発想」とこきおろしてやりました。
なぜそのような結論になるかは、下記原稿をお読みください(長くなりますがすみません)。
また、丁寧に論理的におこなったこの反対討論は保守系議員からも好評で、「あらかじめ聞いておけば俺もあんたに賛成したよ」と声をかけられたりしました。また、市長もあとで「中山さんの言われることをしっかり受け止めなければならない」と言ってくれました。
以下反対討論原稿(アドリブ分追加済み)
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議案第15号:新潟市国民保護対策本部及び新潟市緊急対処事態対策本部条例の制定について
議案第16号:新潟市国民保護協議会条例の制定について
この2つの議案は、国民保護法に基づき、各自治体に設置や制定が義務づけられているものだ。したがって新潟市が他の自治体と比べてことさらおかしいことをしているわけではないし、この議案そのものに重大な瑕疵があるものでもない。また、市長は本市の保護協議会委員に法律関係者や市民公募などを加えるべきとの質問にも前向きな答弁をしていただいているし、先のアメリカの未臨界核実験に対して抗議するなど、その政治姿勢についても高く評価したい。
しかし、これらの議案が法的な義務に基づいたものであったとしても、あるいは、有事法制が仮に必要だとしても、市民の本当の安全安心に直接責任を有する自治体が、この有事関連法体系や国民保護計画が持つ重大な問題点を認識しないまま、国の方針に従って淡々と保護計画を策定するならば、深刻な事態を招く恐れがある、と指摘しなければならない。
実際、そうした危険性を踏まえ、他の自治体では、保護協議会や保護計画を策定しないとまでは明言しないまでも、この国民保護法の基本的制度設計が現場よりも中央の判断や指示を優先しているという観点で、現場で起きた災害に対しては地域防災計画の充実の方がはるかに重要であるとの立場から、今議会で提案を見送っているところもある。したがって、法律違反をしろとまでは言えないが、今回は見送っていただき、執行部も議会もこの問題の重要性をあらためて考えていただきたいという立場で、以下、反対の理由を主張したい。
「国民保護」の問題を考える時、まず、戦争で一般市民がどのような状況に置かれたか、そしてそれに対して国際社会はどのように対処してきたかを検証する必要がある。
第一次世界大戦で民間人の死者の割合は全体の中で5%だった。それが第二次大戦で48%に跳ね上がり、朝鮮戦争で84%、ベトナム戦争では95%に達した。イラク戦争でも今も多くの民間人が犠牲になっている。これら2つの大戦と戦後の世界各地で起こった紛争の経験に基づいて、戦争犠牲者をできる限り少なくするために策定されたのが、ジュネーブ条約などの戦時国際人道法だ。
国民保護法では、12月議会や今議会で市長も答弁している通り、この「国際人道法」を「的確に実施する」旨規定されている。しかし実際には、保護法や保護計画の中で、国際人道法の具体的な規定については、ほとんど反映されていない。それどころか、これら保護法や保護計画の内容は、国際人道法の精神に反するものになっていることを強く指摘しておきたい。
これは私が勝手に言っているだけではない。市長も評価する新潟県の保護計画に関する電子会議室の中で、文民保護の専門家たる日本赤十字社の戦時国際人道法担当者は、次のような趣旨の発言をしている。
「自衛隊に住民等の避難への協力を求める動きが各自治体で見られるが、こうした考え方は国際人道法の基本原則に反する疑いがある。人道法の基本原則は、軍隊や軍事施設と文民・民間施設とを明確に区別し、文民や民間施設を攻撃の巻き添えから防ぐことにある。したがって、軍の輸送車輌等で文民を避難させることなどは攻撃の巻き添えになる危険があり、これが平時の自衛隊の災害派遣との大きな違いだ。自衛隊による住民保護を念頭に置かれている自治体の関係者の方々には、この点を配慮願いたい。」
さらにこの赤十字担当者は、「ジュネーブ条約は、住民を被害から守るために、攻撃する側だけでなく攻撃される側にも予防的措置を要請している。自衛隊施設に隣接して住民の居住地域が密集している現状が随所に見られるが、これは明らかに国際人道法の原則に反する」という旨も述べている。
しかし国の保護法でも各都道府県のいずれの保護計画でも、このような問題意識はほとんど見られず、驚くべきことに、こうした軍事施設への攻撃の可能性やその周辺住民の安全確保策について、全く記述が無い。それどころか、こうした危惧を無視し、先般公表された新潟県の計画の最終案では、自衛隊との密接な連携を図るとの内容が当初案よりもさらに強調されたものとなってしまった。全く物がわかっていないと言わなければならないが、市長の答弁によれば、本市の計画は県や国の計画との整合性が図られることになるわけで、こういういいかげんな計画が市町村で拡大再生産されることになる。
先日も新潟港へ米軍のフリゲート艦が入港してきたが、仮に紛争が起こった際には、米軍艦船や自衛隊艦船だけでなく、その活動を支えている港湾の民間施設が攻撃されても国際法上は何も文句が言えない、というあたりまえの軍事常識を、いったいどれだけの関係者が意識しているだろうか。
この写真は1999年3月ユーゴのプリシュティナにある大きな軍事施設へのNATOの攻撃が目標を外れ、近くの住宅街を直撃した時のもの(
→BBCの1999年3月25日付記事参照)。
有事の際、やむを得ず軍隊との連携が必要になることはあり得たとしても、同時にそこには一定のリスクが生じることについて、きちんと理解しておく必要がある。
また、ジュネーブ条約ではさらに、「傷病者、老人、児童、妊産婦」などを戦争の影響から保護するための「安全地帯」(第4条約第14条)、文民などを戦争の危険から避難させるための「中立地帯」(同第15条)、「戦争孤児や離散児童の保護や中立国への収容」(同第24条)、また、本会議でも議論になった「無防備地域」(第1議定書59条)など、文民を保護するための多岐にわたる具体的な規定が定められている。これらの規定は、先に述べたとおり、これまで世界で繰り返された紛争での多くの一般市民の犠牲という悲痛な経験に裏打ちされたものであり、私たちが「有事」における真の「国民保護」を具体的に考える上で、最も重要な参考材料になるはずだ。しかし、国の保護法にも各保護計画にも、戦時に特有なこれらの課題に対処するための規定に対応した具体的な条項は全く無いのである。
実際の紛争では、こうした人道法があってもその違反・逸脱行為がしばしばおこなわれるのも事実だ。しかしそれらの理念や内容が把握されていなければ、犠牲はより深刻となる。戦前の日本では、人道法や国際条約に対する無知が、捕虜の虐待や日本兵の玉砕・自決、沖縄戦での住民の犠牲など、多くの悲劇を生んだ。
憲法は、国際条約などの誠実な遵守を謳っているし、ジュネーブ条約においても、各締約国が軍事・非軍事教育においてこの条約の理念を広く普及し周知させる義務も謳っている(第1条約第47条)が、今のところ国内で政府がそのような周知・教育をおこなっている事実は確認できない。
今ほど市民厚生常任委員長の報告によれば、「国民保護協議会には軍事に精通した人材の活用を」との意見があったとの事だが、これは筋違いで、今述べたような観点ではむしろ国際人道法に精通した人材の活用の方がはるかに重要であり、「有事」「国民保護」と聞けばすぐに「軍事に精通」と主張するのは、きわめて短絡的な発想だと言わなければならない。
仮に外交政策の失敗で有事が引き起こされてしまった場合、国際人道法への理解や配慮が全く無い現在の日本の有事法制の下では、敵対する武装組織に対し、わが国の一般市民を攻撃する口実や大義を与えてしまう危険があるということも理解する必要がある。
以上のような点を考えれば、「国民保護」と謳っていながら、国も各都道府県も、実はそもそも真面目に「保護」など考えていないと言っても過言ではなく、むしろ政府の目的は別の所にあると考えるのが妥当である。国民保護を優先することなど考えていない政府の姿勢に、厳しい批判の問題意識をしっかりと持つことが、まず何よりも必要である。
今回の議案が通過した場合、設置される保護協議会によって今後実際に策定される保護計画は、条例ではないので議決案件ではない。新潟市が今後有事関連計画を整備していくにあたって、今回がわれわれ議会や議員に残された唯一の意思表示の機会だ。その唯一の意思表示の機会に、国や新潟県が提示していることと、私が主張していることと、どちらが現実の紛争の経験に基づき、どちらが国際条約の条文に合致しているか、どちらが物事を客観的に考えているか、どちらが本当に現実的か、どうか考えていただきたい。
この問題に関する本市のこれまでの対応から考えれば、いくつかの前向きな要素もちろん評価するものの、他のほとんどの自治体と同様、淡々と国や県の方針に基づき作業が進むと思わざるを得ない。世界中で国際法や国際世論に反して侵略戦争を繰り返すアメリカに追随する日本政府に、自治体までも追随してはならない。それでは本当の国民保護、市民の保護は実現できないことを強く主張し、反対討論としたい。

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