去る9月17日、民主党系のシンクタンク「
新潟県地域総合研究所総研」の20周年記念講演会があり、北大教授の山口二郎氏の講演を聞いた。
民主党中心の新政権1年を振り返る趣旨でのお話だった。
山口氏は、「小泉改革」が国民生活や経済をズタズタにしたと指摘し、政権交代の意義を評価するとともに、一方で民主党に政治理念や政策の一貫性が無いこと、菅氏のスタンスのふらつきなどを批判した上で、しかし今のマスコミがマッチポンプ的に「守旧派」的論客を動員して民主党政権批判をあおるようなやり方についても批判。社民党も政権に復帰して、政権を「左」側(単なる左翼という意味ではなく、小泉改革路線の反対という意味合いにおいて)にもっと引っ張るべきだ、とも述べていた。総じて納得できる内容だった。
質疑応答の時間があり、質問用紙方式だったので、僕は山口氏の批判する民主党の「一貫性の無さや菅政権のスタンスのふらつき」の原因の大きな要素として「小選挙区制」があるのではないか、と書いた。背景や理由・根拠とともに、小選挙区導入については山口氏も推進したのでは? とのひとことも添えてだ。
小選挙区制は、すでに多方面から批判されているように、選挙時の国民の「気分」を過剰に議席数に反映させてしまうという側面がある。「小泉改革」の時の自民党、前回の衆院選の民主党も、「得票率」と「議席数」の異常な乖離は問題だ。昨年夏の政権交代は意義あることだが、しかし民主党は半数に満たない得票率で、7割近くの議席を占める。一方、共産党などは9議席しか得ることができなかったが、完全比例配分なら30議席以上も得る。
選挙区で「一人」の議員しか当選できないため、中間層の取り込みにやっきになり、結局、きわめてあいまいな政策に収れんされる。業界や組織の側も、複数の議員がいれば自分たちの意思を反映させるための回路が残るが、「一人」だけなら、結局勝ち馬に乗るしかなくなる。今、相対的に勢いがありそうな民主党に、自民党を推していた業界がこぞってなびいているのはそのせいだ。
民主党は勢いを維持したいから、その結果、労働界にも経済界にも「いい顔」をしたくなる。山口氏が「CO2削減をうたいながら、産業界にもいい顔をしたり高速道無料化で自動車にどんどん乗れというような政策をしてみたり」と批判している状況は、まさに氏にも責任の一端があるこの選挙制度の生み出した問題でもあると言える。ここにメスを入れない限り、山口氏自身が嘆く事態は続く。比例区を中心に議席が削減されれば、それは一層拡大する。しかし、講演の中ではそうしたポイントは全く押さえられず、期待通りにいかない政権を嘆くにとどまっていたと感じる。
そうした趣旨で質問用紙を書き、司会がそれを要約して山口氏に伝える、という形だった。時間のためあまり明確ではなかった司会の要約にも、「これは自民党政権を交代させるためにいろんな政治勢力をごちゃごちゃにして民主党という枠に突っ込んでよかったのかという趣旨でもあると思う」と、即座にこちらの言わんとすることの一端を鋭く理解したところはさすがであったと思う。
しかし、答えは納得いくものではなかった。
「小選挙区導入は推進したわけではなくやむなしという立場だった」と弁明したうえで、
「仮に比例制度にすると、中間的な政党がいっぱい出てきて、結局それは政策の違いのある複数の政党の連立の組み合わせになって、今と同じことになる。だから、基本的にはその組み合わせを連立で行なうかひとつの政党でやってしまうかの違いでしかない」との答えだった。
時間が無かったとはいえ、これは乱暴すぎる論理だ。
政党とはそもそも政策や理念を明確にして、それを支持する人々に支えられ、他の政党と競い合うものだ。複数政党の連立、結構。それは、それぞれの政策を持った政党が、その時の国民の希望や政治争点を見ながら協力し合う形であり、交渉や妥協も含めて健全だ。だから選挙を経て連立の組み合わせが変わることもある。それはそれで合理的だ。そこに駆け引きやキャスティングボード的な存在が重要になることもあるが、それは小選挙区制のひどさに比べれば致命的なデメリットとは言えない。
それをひとつの政党の中に押し込めて、政策も理念もへったくれのような状態がまかり通り続ければ、それは政治の堕落だ。それが今の民主党内部の大きな問題点につながっていることも明白だ。氏の講演や回答には、小選挙区制度が持つ本質的な問題点や、現在の政治状況の負の側面に大きな影響を与えているこの問題に対する自省的・批判的視点が見られない。この問題をパスするべきではない、と強く思う。
ちなみに、小選挙区制については、山口氏も尊敬する故・石川真澄氏が、当時ほとんど孤独な反対の論陣を張っていた。その後、山口氏も公式の場で「反省」の弁を述べていたはずである。それを忘れたのだろうか。
山口氏をこけ降ろすつもりは全くないし、自分のような者が言うのも生意気だが、氏の活動力の高さや言動の影響の大きさなどを考えると、もう少し厳密に、明確に、冷静に物を語ってほしい。

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