保守系会派から「緊急事態基本法」の制定を求める意見書案(
→こちら)が最終日(9/29)間近になって提出。
上記リンク先にPDFがありますが、短いので要旨をここにも貼り付けておきます。
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「緊急事態基本法」の早期制定を求める意見書
今回の東日本大震災における我が国の対応は,当初「想定外」という言葉に代表されるように,緊急事態における取り組みの甘さを国民と世界に広く知らしめる結果となった。世界の多数の国々は今回のような大規模自然災害時には「非常事態宣言」を発令し,政府主導のもとに震災救援と復興に対処しているのである。
我が国のように平時体制のまま国家的緊急事態を乗り切ろうとすると,前衛部隊の自衛隊,警察,消防などの初動態勢,例えば部隊の移動,私有物の撤去,土地の収用などに手間取り,救援活動にさまざまな支障を来し,その結果さらに被害が拡大するのである。
また,原発事故への初動対応のおくれは,事故情報の第一次発信先が国ではなく,事故を起こした東京電力当事者というところに問題がある。さらに言えば,我が国の憲法はその前文に代表されるように外部からの武力攻撃,テロや大規模自然災害を想定した「非常事態条項」が明記されていない。
平成16 年5月にはその不備を補足すべく,民主,自民,公明3党が「緊急事態基本法」の制定で合意したが,今日まで置き去りにされている。昨年来,中国漁船尖閣事件,ロシア閣僚級のたび重なる北方領土の訪問,北朝鮮核ミサイルの脅威など,自然災害以外にも国民の生命,財産,安全を脅かす事態が発生している。
よって,国会及び政府におかれては,「緊急事態基本法」を早急に制定されるよう強く要望する。
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3.11震災を口実に、テロや武力衝突までを含めた包括的な「緊急事態」を概念化し、その対処を求めるもの。
公式には当日の議会運営員会で初めて提案され、質疑に入りました。
各会派から「大災害の対処を求める文脈の中でテロやミサイル脅威などが出てくるのが不自然」「原因の異なる災害と武力衝突をいっしょくたにするのはおかしい」「求める法案の中身が明確でない」といった質疑が交わされました。
その後、僕も「委員外議員」として発言(議会運営委員会は各会派の代表で構成されますが、無所属議員は単なる傍聴と異なり、「委員外議員」として出席し、許可があれば発言できることになっています)し、すでにある有事法体系との整合性について質問。その過程で提案者の理論武装の不十分さや事実誤認なども露わになり、「このまま簡単に考えず、各会派で十分検討するよう求めたい」と主張。
最終的に、保守系2会派が提案することになりましたが、残りの2会派の保守系会派は「国民保護法なども整備されており、人権保護など重要な議論があるので賛成しかねる」と冷静な対応を示し、案文の中で当時国会で「合意」していた公明・民主会派も明確に反対、否決されることになりました。
本会議では提案理由説明の後、共産党議員団が反対討論、提案会派から賛成討論、そして僕が最後に反対討論を行ないました。以下その原稿要旨です。
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今ほどK議員(共産党議員団)から、災害と有事法制を一緒にする問題点や包括的な反対理由が述べられた。私からは、現にある有事法体系との関係、それからS議員(提案会派)が触れた「諸外国の状況」について、本当の実態はどうなのか、ということに的を絞って討論したい。
まず、有事法制については、その評価に関する議論は別にして、武力攻撃事態対処法を頂点とする法体系がすでにある。
その法律が策定される際、むしろ必要なのは大規模災害に対処する法律だという議論もあったが、当時の政府与党などは、それを退けて有事法制を強引につくりあげた。今回の災害への緊急対処を遅らせた責任は、有事法制の確立のみを急いだ当時の政府与党や賛同した勢力にもあり、その一部の人たちが今になって災害への緊急対処の法律が必要だと主張するのは矛盾している。
有事法制下、当時の政府は莫大な労力と予算をかけて各市町村に国民保護計画の策定を強要したが、そのせっかくの国民保護計画も、武力攻撃やテロなどの有事が前提では今回の震災にまったく役立たなかったのは言うまでもない。
憲法をはじめとする関連個別法との関係、特にすでに成立した有事法体系との関係など、この意見書でははなはだ不明瞭で、整理すべき点は多々ある。
また、諸外国にも緊急事態に対処する法律がある、あるいは憲法に「緊急事態」の条項が明記されているとの提案会派の発言があったが、しかし本当にそうなのか。
確かにフランスやドイツには緊急法的な法律が制定されているものの、大陸の中の国同士で戦争を繰り返し、互いに国土を侵略されたヨーロッパ各国と、わが国のようについ60年ほど前に侵略戦争という過ちを犯した国とは、歴史条件も文化も異っており、前提となる法体系も相違点がある。そうした相違を踏まえた上で、外国の法律体系については冷静でかつ詳細な分析が必要だ。先進国すべてに、均一な緊急事態法体系があったりするわけではなく、憲法上の規定もさまざまだ。
例えばイタリアでは、現在残っている緊急事態に関する有事法制は、かつてのファシズム下で策定されたものが制度上残っているだけで、実質的に機能しておらず、事実以上存在していないのと同じだ。
アメリカには、戦時を含む国家緊急事態に際し、執行府に一時的な権力の集中を認める明文の規定はなく、災害や戦争の都度、大統領の権限を規定して対処している。
イギリスの憲法は、単一の成文憲法典はなく、したがって政府の緊急権限などに関する憲法上の明確な規程はない。戦争や暴動を想定した国家緊急権法はあるが、自然災害などについては国民生活の維持のための電力や食料、交通に関する個別法で対応している。
また、こうした諸外国で成立されている緊急権に関し、問題も生じている。
たとえば、イギリスでは第二次世界大戦時に政府によってとられた緊急措置の多くが、何年にもわたってその効力を延長され、また、1974年に時限立法として制定されたテロリズム防止法が、毎年期限を延長され、恒久法的な性格を有するようになるというような事態が生じ、法学界でも問題視されている。この意見書で想定されている緊急事態基本法でこうした問題が自覚されているのか、はなはだ疑問である。
今なすべきことは、大規模自然災害や原発事故など、悲劇と苦難の中で学んだ経験を生かして必要な法的措置を急ぐことであり、有事を一般化し、戦争やテロと災害を同列視することではないことを訴え、反対討論とする。
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議会終了後、傍聴していた市民の方(共産党さんの支持者)から、政党助成金の意見書に対する賛成討論(
→こちら)も含め「敬服しました!激励のFAXを送ろうと思いましたがここでお会いできたので直接ご挨拶です」などとお声かけ頂き、複数の議員や議員OBからも同様の声をいただきました

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