国会で「原発事故の被災者の生活支援に関する法案」が審議され、水面下で与野党協議や政府との調整が進んでいるようです。
僕が関わる「福島原発震災情報連絡センター」では、この法案審議に向け、見解を整理し、要請書を作成しました。
明日、日弁連の「
原発事故被害者援護特別立法を求める緊急院内集会」で当センターの佐藤代表が発言する予定で、その足で各党へこの申し入れ書を手渡す予定です。
被災地福島で、そして避難された方々と接する各地で活動する自治体議員の生の声や想いを整理したものです。
ぜひ一読いただき、今後も私たちの活動に御理解と御協力をお願いできれば幸いです。
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各政党代表・党首 様 2012年5月29日
「原発事故の被災者の生活支援に関する法案」についての要請
福島原発震災情報連絡センター
共同代表 佐藤和良(いわき市議)
同 松谷 清(静岡市議)
同 中山 均(新潟市議)
現在、国会で「東京電力原子力事故の被災者の生活支援に関する施策の推進に関する法律案」が議論されています。私たちも、福島県内外で被災者の方々と直接接しながら活動している自治体議員として、被災された方々の生活再建や心身の健康のための施策の一刻も早い実現の必要性を痛感しています。その立場から、私たちもこの法案の取りまとめに向けた取り組みを評価し、その成立を望むものです。
しかしその一方で、被災者の生活や不安に接してきた経験と立場から見ると、法案の不十分な点や問題も指摘せざるを得ないと考えます。また、報道機関や関係者を通じて伝えられる与野党協議や政府との調整の内容にも、懸念されるいくつかの課題が浮上していると認識します。
つきましては、下記の事項を要請いたしますので、法案の修正に向けて前向きに検討されますようお願いいたします。
記
1.国策として原子力政策を推進した加害責任を国が認め、謝罪し、福島原発事故被害に関する国家補償を行い、また、被害者の生活再建・健康確保、および人権の擁護について、国が責任を負うことを明確にすること(註1)。
2.健康・医療保障については、
@原発事故によって直接的・間接的に被ばくしたおそれのあるすべての人々を対象にすること(註2)。
A健康被害の認定にあたっては、「当該放射線による被ばくに起因する」ことの証明を条件としないこと(註3)。
B「(仮称)被曝者手帳」あるいは「健康管理手帳」を交付し、健康に関する情報を本人が保管できるようにし、定期健康診断、通院・医療行為の無償化、社会保障などを法的に保障すること。
C心理的ストレスなどについても記録や検診、ケアやサポートの対象とし、丁寧な対策を取ること(註4)。
3.制度の運用・見直しにおいて、被害当事者の参加を制度的に保障すること。また、被害者・被災者支援に携る関係者やNPOなどの意見も十分聴取し配慮すること(註5)。
以上
註
1.野党案を取り入れた取りまとめ案でも、第三条で「これまで原子力政策を推進してきた国の社会的責任」について言及されていると聞いている。最終成案においても最低このレベルの表現は確保されるべきであり、さらに謝罪と国家補償の責任についても明言するべきである。
2.野党案は、放射能感受性の高い妊婦・子どもの医療に焦点を当てている。与野党協議の中でもこの点が取り入れられたと聞いており、この点は評価できる。
ただし、WHOがチェルノブイリ事故の一般人への健康被害として公式に認めているのは小児甲状腺がんのみであるが、現地では成人も含めてその他多様な健康被害が報告されている(その中には、国際的に信頼度の高い医学雑誌に報告されているものも少なくない)。したがって、年齢・性別・居住区域などで対象を制限することには慎重であるべきで、被ばくしたおそれのあるすべての人々が将来にわたって援護されるような制度とすべきである。
3.対象となる医療給付について、当初の与党案では「当該放射線による被ばくに起因する健康被害」とされていたが、与野党協議の中で、「原発事故に係る放射線による被ばくに起因しないものであることが明らかな疾病または負傷を除いたもの」と修正されたと聞いている。しかし、政府との協議の中で再び後退し、「被ばくに起因しない疾病または負傷を除く」という表現でまとめられるようである。これは当初の与党案よりは評価できるとはいえ、具体的な証明がなければ「被ばくに起因しない」とされる恐れがある。
福島県健康リスク管理アドバイザーの山下俊一・福島県立医大教授も、「健康被害は将来のリスクを確率論でしか計れず、年間20ミリシーベルトでの健康被害は、確率的にはリスクを証明できない」と明言しており、被害者側が「当該放射線による被ばくに起因する」ことを証明することはきわめて困難で、対象を制限するような文言の使用は避けるべきである。
4.去る5月上旬、私たちは木村真三・独協医大准教授らとともに、数名でウクライナに赴き、チェルノブイリ事故後26年を経て今なお深刻な影響が続く実態を調査した。土壌の汚染実態や健康被害について認識を深めるとともに、事故による環境や社会・経済・雇用・生活状況の重大な変化のために、多くの人々が不安や心理的ストレスにさらされ、それによる健康被害も多発している報告を受けた。
この事実は、一部の科学者や政府関係者が言うような「心配し過ぎるとことによってかえって健康を害する」といった議論に切り縮められるべきではなく、原発事故が直接的な放射線被ばくだけでなく、間接的にも心身にさまざまな健康被害をもたらす教訓として認識されるべきである。チェルノブイリ事故の影響を本当の意味で教訓化し、その経験に学び、心理ケアやサポート、保養の必要性も施策の中に組み入れられるべきと考える。
5.法案では、見直しの条項として、「附則」の「2」において「第五条第一項の調査その他の放射線量に係る調査の結果に基づき、毎年支援対象地域等の対象となる区域を見直す」としている。計測対象や方法にもよるが、これが被害の過小評価につながらないよう留意すべきと考える。また、法の見直しは、単に放射線量と支援対象地域との関係に留めるべきではなく、この法に基づく関連個別法との関係や実効性、施策の費用対効果、運用面での課題など、福島県民をはじめ被災当事者の声、生活や医療支援業務に関わる従事者、さらには被災者への支援活動を展開している団体やNPOなど、現場の声が広く取り上げられる必要があると考える。

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