2012/4/28

「ユベール・ロベール ―時間の庭―」 国立西洋美術館  美術

 ユベール・ロベール 〜時間の庭〜
 於 国立西洋美術館

 ユベール・ロベール(1733〜1808)は、かねがね偏愛する芸術家であるが、決して高い知名度を誇るわけでなく、まさか日本で個展が開かれることになるとは思わなかった。
 今回はロベールの膨大なコレクションを持つ、ヴァランス美術館の改装により、多くの作品が来日したことに伴うものだ。残念ながら至高の美を誇る油彩画は比較的少ない数にとどまり、展示の中心はサンギーヌ(赤チョークの一種)によるデッサンとなる。
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「パラティーノの丘の素描家たち」(1761〜1762)

 しかしロベールの作品をまとめて見る機会など、まずは考えにくく、貴重な催しだと思う。そしてもうひとつ残念なことには、ゴールデンウィークの初日なのに、ほとんど観客がいない。
 普段は作品も満足に鑑賞できない、展覧会の混雑ぶりに文句ばかり言っているが、閑散とした会場でじっくり作品に対峙できることが、嬉しくもあり、また無念でもあるのは贅沢な文句だろうか。

 いや、残念などと口走ってしまったが、デッサンの充実ぶりにはやはり目をみはる。そして、1点1点、モノクロ映画の充実したカットのようなデッサンを見続けながら、不意に油彩画の絢爛たる色彩美に触れるとき、デッサンと油彩の双方が引き立て合う。
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「メレヴィルの情感と庭園」(1791)

 フラゴナールやブーシェらと共に、ロココ時代を代表するロベールは、いわゆる「廃墟」を画題に持ち込むことに個性がある。
 そしてしばしば、現実の風景画の中に、本当はそこにはない廃墟の建造物を描きこむ。こうして1枚の絵の中に、古代ローマから現在に至る巨大な時間の流れが封じ込められ、同時に現在の自然もやがては廃墟と化すという、大きな時間軸がある。

 これは現世における一瞬の享楽、または天上の永遠性こそを是とする、ロココの芸術家にあっては、もはや孤高だ。
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 そして見事な遠近法で、一幅の画を構成するロベールの一点透視画法の、その一点の向こうには、まぎれもなく神の世界がある。
 これを個人的に「天国の門への遠近法」と呼びたいが、凝縮された光の向こう側を想像させるロベールのその色彩を、私は深く愛する。
(左図版は「マルクス・アウレリウス騎馬像、トラヤヌス記念柱、神殿の見える空想のローマ景観」1786)

 私は今しがた、そんなロベールを孤高と書いたが、彼の業績は画業だけにとどまらない。
 ほとんど知られていないことだが、ルイ16世治下のルーブル宮を、現在ある姿の美術館、すなわちルーブル美術館としての構想に携わったのが、ロベールだった。

 彼はルーブルが収蔵する作品の、目録作成、収集、修復、そして観客を想定した展示設計までを仕切り、さしずめ現代で言う学芸員の仕事を先駆けたような、大作業を行った人物だ。(このことに関して、詳細をきわめた展覧会目録の論文がすばらしい)

 そして、ヴェルサイユ宮の庭園設計にも携わり、「国王の庭園デザイナー」の称号を得る。まさに当時の芸術家としての最大権威者だ。
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「ヴェルサイユのアポロンの水浴の木立」(1803) この庭園は今も残る。

 そのような「権威的」人物が、フランス革命後に無事ですむわけがない。1793年にはひとたび投獄されるが、幸いロベスピエールの失脚を機に、翌年には釈放される。
 とはいえ、獄中にありながらも、食事の皿に典雅な風景画を彩色しつつ、牢番を通して販売していたというのだからたくましい。
 そして、その獄中に製作した皿の数点も、今回の展示ではじっくり鑑賞することができる。

 また、このことは不勉強にして知らなかったが、ジャン=ジャック・ルソーの墓碑も、ロベールが手掛けたそうで、彼の業績はもっと大きな興味と共に讃えられてもいいのではないか。
(開催期間 2012年3月6日〜5月20日) 


2012/4/20

キネマ旬報 5月上旬号  映画

 4月20日発売の「キネマ旬報」5月上旬号 「映画本大賞 2011 ベストテン」にて、選者のひとりとして2011年度に出版された、読まれるべき映画ベスト10を選出し、コメントも寄せております。
 どの10冊も必ず充実した読書を約束する、自信ありのチョイスです。
 ぜひお目通しください。

2012/4/17

『タイタニック 3D』  映画

 ジェームズ・キャメロン『タイタニック 3D』 
 やっつけ仕事ではなく、本当に丁寧に丁寧に作業されたことが、ひしひし伝わってくる見事な3D効果で、私たちはまさにタイタニック号の乗員のひとりとなる。
 
 紫の帽子の大写しから、タイタニック号を見上げる顔のアップまでの、ケイト・ウィンスレット初登場の、一連のアクションの見事さに胸が熱くなる。
 乗船チケットを手に入れ、歓喜の疾走をするレオナルド・ディカプリオの、若さはちきれた姿に、忘れていた何かを思い出させられる。

 この映画は永遠の若さをフィルムに焼きつけ、その若さ故に、これほどの大惨事をも愛という名の冒険と化し、そして伝説となった姿を見事に熱く描いている。
 だから何度でも甦り、何年たっても永遠の命を持つ作品なのだ。おそらくジェームズ・キャメロンはそのことに自信を持っている。
 レンタル店の片隅で埃をかぶり、店では千円ちょっとでDVDが売られ、ネット配信によってiPadで見られる程度の作品ではないはずだ、ということに。

 だから「3D」化というのは、新たに『タイタニック』体験をするための方便であると思う。つややかな主演2人の顔、タイタニック号の圧倒的な質量感、見せに見せる破滅の時間。確かに3D化は、この映画に新たな命を吹き込み、まったく新しい臨場感を生んだ。
 けれど、『タイタニック』の感動は、2Dでそのまま見たって、一切損なわれはしないだろう。普通にもう一度見たって、タイタニック号の先端で「ぼくは世界の王だ!」と拳を突き上げて叫ぶディカプリオの若き姿には、感極まるに違いないのだ。

 でも今の時代、ただの旧作リバイバルで、もう一度劇場に足を運ばせられるほど、興行は甘いものではない。プラスαの何かがあってこそだろう。だからの3Dだ。
 そして、3Dで見せるからには、過去に見た人の心を一切裏切ってはならないし、初めて見る観客の期待を裏切ってもいけない。

 「今から見るとたいしたことないや」、「何だこの程度の映画だったのか」という反応ほど、キャメロンにとって不本意なものはないだろう。
 だからキャメロンは、3D化のために精魂こめた作業を施してみせる。かくして、見事に素晴らしい“新作”劇場用作品として、『タイタニック』は生まれ変わった。

 劇場用パンフに掲載されたジェームズ・キャメロンの言葉を引く。
 
「この3D版は、14、15年前にこの作品を見た人にとって、当時とは違う意味を持つだろうと思います。現在はもしかすると結婚しているかもしれないし、お子さんが生まれたかもしれません。愛も人生も、当時とは違う意味を持っている場合もあるでしょう。ロマンティックな恋愛はティーンエイジャーのものなので、今はその輝きを多少失っているかもしれません。そのかわりに義務感や生きる意義について、また大切な人の存在など、年長の観客が抱く反応の方をもっと強く感じるかもしれません。つまり「タイタニック」には何歳だろうと必ずその人に訴えるものがあるのです」(下線筆者)

 なんと素晴らしい宣言であることか。文字通り、言葉の何の虚飾もなく、真の「永遠の名画」である。

2012/4/8

今日は誕生日。  ノンセクション

 ようやく回復したけど、39度もの熱が出てさんざんな誕生日。とうとう46歳になってしまったので、また毎年恒例の世界の偉人たちが46歳でどんな仕事を為したかをつづる、自虐ブログ。

スティーブン・スピルバーグ『シンドラーのリスト』、『ジュラシック・パーク』(号泣×∞)、ロン・ハワード『グリンチ』、リヒャルト・ワーグナー『トリスタンとイゾルデ』(号泣)、ジャン=リュック・ゴダール『ヒア&ゼア・こことよそ』、フランソワ・トリュフォー『緑色の部屋』、『逃げ去る恋』、トム・クルーズ『ワルキューレ』、アルフレッド・ヒッチコック『白い恐怖』、エミール・ゾラ『制作』、クリント・イーストウッド『アウトロー』、小林秀雄『ドストエフスキイ』、ジョン・フォード『怒りの葡萄』、『果てなき船路』、マーク・トゥエイン『王子と乞食』、夏目漱石『行人』(号泣)、ジャン・ルノワール『スワンプ・ウォーター』、マックス・オフュルス『忘れじの面影』、マーティン・スコセッシ『最後の誘惑』、小津安二郎『晩春』(号泣)、大島渚『愛の亡霊』、ロマン・ロラン『ジャン・クリストフ』(号泣)、溝口健二『団十郎三代』、『宮本武蔵』、スティーブン・キング『ドロレス・クレイボーン』、蓮實重彦『小説論=批評論』、ロバート・アルトマン『ギャンブラー』、谷崎潤一郎『蘆刈』、ルートヴィヒ=ヴァン・ベートーヴェン『ピアノ・ソナタ第28番 イ長調 作品101』、村上龍『ライン』、リヒャルト・シュトラウス『ばらの騎士』(号泣)、中上健次『軽蔑』(→没)

 とほほ。つくづく自分がゴミに思えてくる。最近、更新が滞っておりますが、また今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

2012/4/5

キネマ旬報 4月下旬号  

 4月5日発売の「キネマ旬報」4月下旬号。「親と子どもが映画を撮る」特集に、エッセイ「そして映画はつづく」を寄稿しています。
 ケン・ローチが新作『ルート・アイリッシュ』を発表した折しも、その息子ジム・ローチが『オレンジと太陽』で見事なデビューを果たしました。
 そのことを枕に、親子で映画監督になった面々。コッポラ、カサヴェテス、イーストウッド、ランディス親子。それからロン・ハワードの娘、ブライス・ダラスについて触れています。ちょっと変わったアプローチかと思いますので、ぜひお目通しください。



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