10月24日の土曜日に行った、夏井川渓谷の背戸峨廊のお話し。
背戸峨廊という言葉は、いわきの詩人、草野心平先生が名付けました。
草野心平先生は明治36年、いわき市の上小川に生まれており、現在、小川町には、草野心平記念文学館が建てられています。
僕の母親(リリー園にいるばあちゃん)は、昔、草野心平先生とお茶したことがあるそうです。
僕は草野心平先生の詩集を一冊持っていますが、カエルや自然を詠んだ詩が多いことが印象的。
そして、最も印象的な詩は、、
「冬眠」です。
だって、詩の本文が、、、
「●」の黒丸一個ですよ。
本質をズバリ表現していますが、、、
草野心平先生だから許される、、、
僕が高校2年生の時に、草野先生は母校の磐城高校で講演会を行いました。
僕は彼の詩が大好きですが、その破天荒な半生も魅力的。
「火の車」という居酒屋を経営して、その店に置いた酒のほとんどを自分で飲んでしまったというような、本当かウソか分からない話も聞いたことがあります。
本当に日本酒が好きで、川内村で天山祭を開催している時は、村民の方々と仲良く飲んでいたそうです。
川内村平伏沼のモリアオガエルとの縁から、川内村に天山文庫が開設されたのは有名な話ですね。
さて、背戸峨廊の背戸とは隠れた場所のことで、峨廊とは、美しい岩壁とのことだそうです。
そして、トレッキングルートの随所に見られるネーミングも草野心平先生が名付けたとのことでした。
背戸峨廊は、正式には夏井川左岸支流の江田川渓谷のことです。
江田川渓谷は、阿武隈山地の基盤岩である花崗岩帯を深く刻んで、幽谷の渓相を呈しております。
付近の植生は中間温帯林であるところのモミ−イヌブナ林帯で、夏緑樹が葉を繁らせている時期は、昼なお暗き深山の雰囲気です。
新緑や紅葉の季節はもちろん最高ですが、観光客で混み合います。
僕は最近、真冬の、木々が葉を落とした時期に行ってみたいという気持ちがあります。
おそらく、日射しがまぶしい明るい渓谷となっていることでしょう。
南国のいわき市なので、ルートも氷結することは、そうないでしょうし。
このことを考えると、ワクワクします!!!
早く、左腕、治らないかなー。。。
さて、トレッキングを始めましょう。
入渓地点にあるルートマップ看板。
背戸峨廊は観光地としてあまりにも有名ですが、基本的には、渓谷遡行コースです。
危険箇所もあるので、必ず確認いたしましょう。
いよいよ入渓。流れはどこまでも澄み切っています。
太く高いモミの木が。
モミ−イヌブナ林ならではですね。
渓相にさからわずに、身体の力を抜いて、ゆっくりと遡行してゆきます。
所々濡れた岩場で滑りやすいですが、五感をはたらかせて、スリリングな遡行。
この切り立った崖は草野先生が「屏風岩」と名付けられた場所でしょうか。
「屏風岩」を過ぎるには、切り立った崖の真下に付けられた細い道を歩きます。
このコースは遡上コースで、戻りコースは別にあります。
戻りコースとしてこの遡上コースを使うと、すれ違いで危険が生じるので、絶対にやめましょう。
ここは流れに沿った道が途切れ、高巻きを余儀なくされます。
不思議にゴツゴツした樹肌。何の樹でしょうか???
「廻り淵」手前の低い滝です。
この流れにできた壺状のえぐれは、人の背の高さ以上もあろうと思われる深さです。
「廻り淵」を過ぎたあたりの流れ。
そこには、美しいキッコウハグマが咲いていました。
少し谷の上が開けてきました。
美しい谷の樹相です。
紅葉の季節になれば、茜色のイロハモミジなどに彩られることでしょう。
まだここは紅葉していません。
そして「トッカケの滝」です。
背戸峨廊の滝のなかでは、一番の高さを誇ると言われております。
滝の左側には高いハシゴが据え付けられています。そこまでは岩壁際の鎖場を伝って歩みます。
僕はハシゴを登る自信がない(というより、左手が駄目なので登れない)ので、一般コースに戻り高巻きいたしました。
ダイモンジソウの残花が清楚に咲いていました。
一般コースから渓谷の上を見上げると、日の当たるあたりは紅葉が始まっていましたね。
美しい紅葉の始まりです。
僕は、ここで引き返しました。
ここから先は、鎖場が続き、ちょうど左手で鎖を確保するへつりなのです。
場所によっては三点確保が必要な場所もあるみたい。
背戸峨廊は、ここから先が本当に面白い場所なのでしょうが、、、
左手が痛くなければ大丈夫なのですが、現在は変に鎖をつかむと痛みが強く感じられ、危険なので、ここで止めにいたしました。
身体を治して、再挑戦しますね。
戻り道は、遡行コースとは別の楽な道。
渓谷林の紅葉のはじまりを楽しみながら帰りました。
黄色い葉の樹冠はイヌブナです。
遡行する時も戻る時も、けっこうイヌブナとは出会うことができました。
ふと、脇を見ると、ウラジロガシの低木です。
このような上流部までウラジロガシは遡ってきているのですね。
イヌブナやカエデなどの夏緑樹の樹冠の間に聳えるモミ。
モミ−イヌブナ林の様相ですね。
見ていて嬉しくなりました。
今回の背戸峨廊トレッキングは、途中で遡行を断念いたしましたが、これから何度でも来ることができるので、左上半身を完全に治してからのお楽しみということにします。
今回は、遡行時も戻り道でも、何人もの人たちと出会いました。
けっこう、渓谷はにぎやかです。
谷川に潜む妖精さんに、心でお話しかけをしたかったのですが、人がいったり来たりでは、そういう雰囲気になれない。気持ちも集中できません。
今度は、あまり人が来ない季節にトレッキングしてみようかな。
やっぱり、真冬の季節にもう一度行ってみたいー!!!
この背戸峨廊(江田川渓谷)は、福島県植物研究会会長のY先生が代表なされておられますいわき自然塾の方々によって編纂された『歴春ふくしま文庫@ ふくしま自然散歩−浜通りの平野と渓谷−』2002年において「夏井川渓谷植物散歩(いわき市) 背戸峨廊」として紹介されております。
来年の春には、ハナネコノメの花を観察に、ぜひ遡行してみたいなー。
できれば、有志の皆様といっしょに。
いかがでしょうか。