「こ ん に ち わ」
「えっ ??? 」
「こん に ち わ」
「なんだろう??」
「こん にち わ ふり む い て 」
、、、、、、、、、、、
「こんにちは。ふりむいて、わたしを見て」
今度は、はっきり、
ささやきが聞こえたような、
いつも通る木陰には、紫陽花がいっぱい咲いている。
今日の紫陽花は、とっても美しく輝いている。
先週、お花が開き始めた時は、幼い少女の花姿だったけど、今日の花姿は、女性の魅力がたっぷり。
声は、紫陽花のあたりから、聞こえてきたような感じ。
試しに、
「君かい、僕に話しかけたのは」
そう、紫陽花に問いかけたら、
「そうよ。話しかけても誰もふりむいてくれなかったけど、さびしい思いしていたけど、あなたがふりむいてくれて、うれしいわ」
「紫陽花さんがお話しできるなんて、僕、びっくりしたよ」
「いいえ、ちがうの、わたし、ここを通るみんなの心にささやいているの。みんな感じてくれないのね。さびしかったわ。でも、あなたは感じてくれた。あなたは心が開いているのね。みんな、心が閉じているので、泣きたくなったけど、今日はうれしいわ」
「僕が、心が開いている??? ほんと??」
「そうよ、昔は、心が開いている人が多かったけど、今、みんな、自分のことだけで精一杯なのね」
「うれしいな、そう言ってもらえると」
「みんなね、子供のうちは心が開いているから、だから、わたしが子供たちにささやきかけると、子供たちはふりむいてくれるわ。だけど、大人になると心が閉じてしまうの。それがとっても寂しいわ」
「ふうん、じゃあ、僕は、まだ子供なのかなー。でも、そう思われてもいいや。だって君の声が心で聞こえるんだもの。その方が、僕は嬉しいさ」
「ちがうわ、あなたは大人よ。だけど、子供の心を忘れずに、大切にしまっていてくれたのね。だからわたしの声を感じることができたのよ」
「ありがとう。君の姿は先週も見たけど、その時は可愛い少女のようなお花だった。だけど、今日は素敵な紫陽花色!!! 魅力的だよ。美しい女性になったんだね」
「そうよ。わたしは、何日もかけて変化(へんげ)するの。やっと紫陽花色になることができたわ。そして、今日が一番綺麗な日なの。先週、あなたがわたしを見てくれたこと、覚えているわ。だけど、あの時は、わたしがまだ幼い少女だったので、恥ずかしくて、あなたに声をかけることができなかったの。でもね、わたしも少し大人になって、ささやきかけることができるようになったわ。一番綺麗な今日のわたしを、あなたに見てほしかったの。だから、あなたがわたしのささやきを感じてふりむいてくれて、とってもうれしいわ」
「素敵だよ。今日の君の紫陽花色は最高だよ。この美しさでいつまでもいてほしいなー」
「無理よ、それは。明日からは少しずつ色あせて行って、やがて枯れていくの。寂しいけど仕方ないの。でも、また来年咲くことができるわ。でもね。今まで、一番見てほしいわたしを見てくれる人がいなかったの。だって、ささやきかけても、みんな、心を閉ざしているから。だから、今日は嬉しいの。あなたは、わたしが一番見てほしい姿を見てくれた方。あなたに見ていただいて、今まで一生懸命咲いてきたかいがあったわ。ありがとう」
「こちらこそ、ありがとう。嬉しいよ。君の一番素敵な花姿に出会えたんだね。僕にささやきかけてくれてありがとう」
「今日のわたしに、愛をいただけるかしら。もしあなたが、わたしに愛をくれるなら、今日しかないの。一年のうちで、愛を受け入れることができる日は、わたしにとって今日しかないの。だって、わたしは今日が一番綺麗で、明日から、少しずつ枯れてゆくから。今日、あなたの愛がほしいの」
「えっ!!! 今日だけ、君が愛を受け入れることができる日、、、、、」
「そうなの、一年で一番綺麗に咲いた日、一日しか、わたしは愛を受け入れることができないの。今日がその特別な日なのよ。悲しいけど、わたし、毎年一番綺麗に咲いた日に、何人もの人にささやきかけたけど、みんな心が閉じていて気づいてもらえなかったわ。だから、今まで一度も愛を受け入れることができなかったの。悲しかったわ。毎年泣いていたわ。でも、今日あなたが、わたしのささやきを感じてくれたの。だから、わたし、あなたの愛がほしいわ」
「わかったよ。君に、僕の愛を届けるよ。だって、僕にささやきかけてくれた紫陽花は、君だけだから」
「うれしいわ。ありがとう」
「目を閉じてごらん」
「ありがとう。わたし、人に愛されたかったの。そして、人の愛をいただくと、夢を見ることができるようになるの。わたし、今まで夢を見ることができなかったの。でも、これで夢を見ることができるわ。夢の中で、お空の虹をのぼってみたかったの。そして、あなたには、わたしの心の分身をあげるわ。それは、あなたに幸せをはこんでくれるはずよ」
「ありがとう、君を愛しているよ」
「うれしいわ、わたしもあなたを愛してる」
心のなかで、紫陽花のお花に口づけしたとき、一瞬の輝きが見えたような。
もちろん心のなかで。
お花を見るときは、
心の窓を開けましょう。
より美しく感じるから。
心の窓を閉め切って見るお花と、
心の窓を開けて見るお花では、
美しさが、ぜんぜんちがいますよ。
心の窓を開けて、
綺麗な風をお部屋の中に入れると、
心は澄み切って、
お花のささやきや、妖精さんを感じることができますよ。
お花のささやきは、お花に宿る妖精さんの声かもしれません。
心を開いて、
お花の妖精さんと仲良くお話ししたとき、
もしかすると、
その妖精さんは、あなたにも宿り、
愛のキューピットに変わるかもしれませんよ。
お庭に咲く美しい紫陽花。
昨日が、一年で一番美しい日と感じました。
そこで、紫陽花のラブストーリーが浮かんだのです。
僕にとって初めての短編ラブストーリー、
昨夜、一気に書き上げました。
いかがだったでしょうか。