2018/9/8

『ポップ・アイ』・・・象と旅するロード・ムービー  映画
 

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映画『ポップ・アイ』より


家内と映画を観に行くと二人で2200円。但し、問題は「同じ映画」を観なければイケナイ事。だから我が家では、めったにこの割引を使う事は出来ません。「同じ映画館で別の映画を観ても割引だったら良いのに・・・」とは家内の弁。


この制度を利用して観に行ったのは『君の名は。』『聲の形』『この世界の片隅に』『未来のミライ』と全てアニメ映画。さらには映画代は私持ちというのが暗黙の了解。それでもアニメなんて見たく無いという家内を、さんざん拝み倒して、「息子がこの監督好きなんだよ、きっと話が合うよ」なんて家内の琴線に触れるマジックワードを囁いたりしてみます。

本当はアニメ映画以外も一緒に観たいのですが、私の実写映画の趣味は普通の人とズレているので、多分家内は退屈してしまうでしょう。かと言って、話題のハリウッド映画なんて、お金出して観たくも無いし・・・。

ところが、先週、家内が休日に暇だと言うので、映画でも行こうかとネットで検索したら「タイ」の映画を見付けました。我が家は息子の保育園時代から20年以上、タイ人のお母さんのご家庭(ご主人はアメリカ人)と家族ぐるみの付き合い。家内や子供達はタイにも一緒に遊びに行っています。

「これ、タイの映画だってよ。観て観ない?」と誘ったらOKを頂きました。勿論、映画代は私持ち。場所は渋谷のユーロスペース。

■ 象と旅するロード・ムービー ■


私はその国の現状を知るのに、旅行以上に映画が役立つと考えています。映画には観光地を旅行しただけでは分からない、その国の裏事情や、庶民の生活や文化が詰まっています。

私はタイには行った事は有りませんが、仕事で出かけた東南アジアの国々では、よくフラフラとマーケットや裏通りや郊外を散策するので、観光地以外のアジアの素顔はある程度は知っています。一緒に仕事をすると、国によって随分と国民性が違う事も良く分かります。

ネットに載っていたタイ映画の『ポップ・アイ』のスチル写真からは、そんなアジアの国の肌触りが伝わって来ました。

<ここからちょっと粗筋>

歳を取り、事務所でちょっと邪魔な存在となった著名な建築家のタナーは、ある日観光用の一匹の象に出合います。彼は子供の頃、田舎で象を飼っていましたが、泣く泣くその象を売った事があります。彼は街で出会った象を、かつて飼っていた象の「ポパイ」と確信します。

タナーは思わず象を買い取り、家に連れて帰ります。彼の家は広い庭がある豪邸・・・。ところが、夜中に象が家の中に入り込んでしまい、妻が激怒して家を出てしまいます。実は夫婦仲は最近冷え込んでいたのです。

庭で象を飼う訳にも行かず、タナーは象を500km先の故郷に還す事に。ここから象と中年男の旅が始まります。途中、様々な人と出会い、人の縁に導かれる様にして故郷に向かうタナーでしたが、500kmの道のりは遠い・・・。

何の変哲も無いタイの田舎を永遠と象と旅をするロードムービーですが、これ「名作」認定します。とにかくロードムービーって演出が過剰だっり、突飛な事件が起こると興ざめなのですが、かといって2時間近く、ただ移動するだけの映像を観るのは退屈です。その匙加減が難しい。

何も起きないロード・ムービーの代表格がウィム・ヴェンダースの『都会のアリス』だとするならば、山田洋二の『幸せの黄色いハンカチ』は、丁度良い塩梅に小さな出来事が繋がって行き。最期に再会というメインイベントが起こる。

『ポップ・アイ』はちょうど、その間って感じで、淡々としているけれども、退屈もしない映画。なんだか、自分も象と一緒に旅をしている・・そんな錯覚を覚える様になると、後はスクリーンに流れる時間に身を委ねるだけ。ちょっと眠気も覚えながらも2時間が過ぎて行きます。

途中、家内が寝てないかチェックしていましたが、結構真剣に観ていました。むしろ、私がウトウトしたら、肘で小突かれました・・。

■ 過剰な映画が氾濫する中でキラリと光る ■

所謂ミニシアター系の作品は結婚するまでは散々観て来ましたが、ある程度のバリエーションを観てしまうと、「感動」する様な作品にはなかなか出会えなくなります。

かといって、ハリウッド映画の様に計算されつくされ、「さあ、感動してください」って感じの映画は全く受け付けません。そんなこんなで、最近は年に2〜3本、仕事の合間にたまたま上映してる映画を観る程度になってしまいました。

映画ファンと言うのが恥ずかしい状況ではありますが、何故だか、フラリと入った映画に外れは少ない。昔から映画はスチル写真で観るかどうか決めていますが、スチルに魅力のある映画にハズレは少ないというのが私の持論です。

『ポップ・アイ』もスチルに惹かれました。

監督はシンガポールの新鋭、カーステン・タン。台湾のホウ・シャオエンに似た肌合いの監督です。人物と観客の距離感が絶妙な監督。

主演は、かつてはタイのプログレッシブロックシーンで名を馳せたというタネート・ワラークンヌクロという方。何と映画初出演だそうですが、なかななの演技でした。(というか演技をしていない所が絶妙に良い)

この映画、見どころといか聴きどころは音楽です。タナーの携帯電話の着信音はニーノ・ローター風だったり、エンディングはエンニオ・モリコーネ風だたりと、映画ファンには心憎い選曲。そしてタイの歌謡曲が日本の演歌に似ていたりと聴きどころも満載。


ところで、劇場を出た後の家内の感想はというと・・・・特に有りません。実は私も何も語る事が無かった。ツマラナイ作品だったからでは無く、言葉にしなくとも、何となく心に浸透して理解できる作品だから。


こういう映画、一生、記憶に住み続けるんですよね。そういった意味でもホウ・シャオエンや小津安二郎に近い監督だと思います。

予告映像を紹介しますが、予告でダイジェストにしてしまうと、この映画の良さは伝わり難いですね。





最後にこの映画を名作としているのは、象に乗って旅するのでは無く、象と一緒に歩いて旅をする点。この違いは大きい。
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