「『日本の動物はいつどこからきたのか』★★★☆☆」
Citation and Reference
『日本の動物はいつどこからきたのか――動物地理学の挑戦――』
京都大学総合博物館(編)
2005年
岩波書店
★★★☆☆
岩波科学ライブラリーの109。
動物地理学の本。京都大学総合博物館の2005年企画展「日本の動物はいつどこからきたのか」と連動した企画本。京都大学の13人の研究者が、それぞれの研究結果を報告する。各トピックは長くても10ページ程度で、ポンポンとリズムよく読み進めることのできる、知的好奇心を掻き立てる1冊。ただし、一般向けに書かれてはいるものの、読み物というより「論文集」という印象を受けた。
動物地理学とは、動物の分布が何故今のようになっているのかを明らかにする学問のようだ。フィールドワークにより動物の分布調査を行い、得られた標本(生きた動物だけでなく、化石等も含む)を分類し、空間的・時間的な分布、その歴史を明らかにしていく。近年は、DNAの塩基配列の解析が、動物の類縁関係を明らかにするのに威力を発揮しているようだ。地理的に隔絶されたことにより種の分化が起きたようなケースでは、2種のDNAの相違量から地理的な隔絶がいつ頃生じたのかを逆に推定するようなことも可能なようだ。動物分類学・動物系統学・動物生態学・古生物学・地理学・地史学との関連もある学際的な分野、また日本の周辺地域との連続性・非連続性を探るため国際共同研究が期待されている分野である、とのこと。
日本列島は、そこに生息する動物の種類が多いだけでなく、固有種が多い、動物地理学にとって興味深いフィールドであるらしい。日本列島やその周囲を取り囲む海の形状は時代によって大きく変化してきたそうだが、1000万年前に最初の動物が侵入し、その後継続的に様々な動物が侵入してきたようだ。当然、「日本の動物はいつどこからきたのか」という問いに対して、「○○は、○○万年前頃、○○からきました」などと簡単に答えられるわけではない。本書の内容も、「いつどこからきたのか」よりも、「分布がどのように変化してきたのか」を扱ったものが多いように思う。そういう意味では、本書のタイトルはややミスリーディングだと思う。
実はタイトルの「動物」には「人間」も含まれているのではないかと密かに期待していたのだけど、人間の話は全く出てこなかった。植物の話もほとんど出てこない。
本文110ページ程度。
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Kota's Book Review
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Terai, S. Web Page

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