『90分でわかるヴィトゲンシュタイン』
ポール ストラザーン(著)
浅見 昇吾(訳)
1997年
青山出版社
★★☆☆☆
Paul Strathern, 1996,
Wittgenstein in 90 Minutes.の翻訳。著名な哲学者の生涯と思想を紹介する
Philosophers in 90 Minutes: Their Lives & Work.シリーズの4冊目。
このシリーズの本を読むのはこれで5冊目。ようやく、このシリーズに読み物としての抜群の面白さをもたらしているものが何であるのか、おぼろげに見えてきた。
著者はときどきある特別の意味において「心理学」という言葉を使う。大抵の場合それは「フロイト流の精神分析的解釈」のことだ。例えば、幼い頃に母親を亡くし乳母に育てられたとか、厳格な家父長的な父親が家庭を支配していたとか、そういった人生の初期における経験がその後の人生に決定的な影響を及ぼした、とする「心理学者」による精神分析的解釈について一言触れるようなときだ。
著者はこのような「心理学」に対して冷笑的な態度をとっているように見える。ところが、「哲学者の生涯からその思想の特色を理解する」という本シリーズの趣旨そのものが、著者自身の記述にもそのような「心理学」的な色彩を与えているように思う。本シリーズの面白さは、皮肉にも、そのような「心理学的物語」を付け加えることによって生まれている側面がある。
これは本シリーズのもつ1つの限界ではないか、と思う。「哲学者の生涯からその思想を理解する」とき、「心理学」的な物語の紡ぎ方以外にも、社会学的・文化史的・歴史学的といった様々な書き方が可能だろうと思うのだ。僕がこのシリーズを個々の本としてはそれほど高く評価していなくても「通して読むと面白い」と感じているのは、ヨーロッパの社会・文化・歴史の流れ、というものが何となく見えてくるように思うからだ。おそらく伝記的な情報が最も得られにくいプラトンについて書かれた
第1作が僕にとって1番面白かったのは、「心理学」的に書きようがなかったせいではないかと思う。
ところで、これまでに読んだ5人の哲学者のうちただの1人も結婚していないというのは偶然なのだろうか? 哲学者ってのは結婚しないものなのだろうか? それとも、誰もが結婚するようになったのは、現代になってからの話なのだろうか?
本文70ページ程度。
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Kota's Book Review
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