部屋の片付け、模様替え、と続けば、必然的にレコードを聴くことになる。我が家には、いまや不良債権と化した巨大なスピーカーが4個とやたら重いアンプが1台ある。
もともとは、10年ほど前に会社に勤めていた際に、ホームシアターに凝っていた社長から借りたもの。琴似の小屋のような一軒家に独りで住んでいた時は、思い切り爆音を鳴らしていた。サラウンドプロセッサーという機器もあり、普通の2チャンネルステレオ音源を4つのスピーカーから鳴らすと、
恍惚とする浮遊感が得られた。

もちろん会社を辞める際に返すと申し出たのだが、僕が感情的に辞めたこともあり社長も感情的になっていて、「あれはあげたものだから、返さなくてもいい」と言われてしまった。他の社員からも「そういうのは、恋人と別れる際にそれまで貰ったプレゼントを全部突っ返すような女々しい行為だ」とも言われ(僕は貰ったつもりはないので、いまだに納得いかないが)、そのまま持っていた。
その後、わりとすぐに非常に壁の薄いアパートに引っ越すことになったときに売ってしまおうかとも思ったが、社長は中古オーディオ屋なんかをよくチェックしていたので、「どうせ金に困って売ったのだろう」と思われるのが嫌で売らずに死蔵していた。今住んでいるマンションはずっと壁が厚いが、サラウンドプロセッサーが壊れてしまったこともあり(メーカーに修理を依頼したが、古い製品でもう部品がなく修理できなかった)、音を鳴らしたことはほとんどない(サラウンドプロセッサーなしでも、アンプに4個のスピーカーを接続することは可能なのだが)。
スピーカーの大きさばかりが目を引くが、一緒に貰ったアンプがまた凄い。貰ったとき聞いた話では、アンプの世界では(って言うか、そんな世界あるのか!?)「キロ1万」と言われているのだとか。これは良いアンプは良いトランスを使っており、良いトランスは重いから。このアンプは20kgあるから、定価20万円ということか。ちなみに、上に載せているレコードプレーヤー(これは父から譲り受けたもの)は10kgなので、両方いっぺんに抱え上げると30kgになる(配線したまま移動したかったので…)。こんなに重いものを持ち上げたのは久し振りだ。
正直、数ヶ月前から、このアンプとスピーカーを売ってしまおうか、と思っている。はっきり言って場所ばかりとって邪魔だし(画像にはスピーカーが2個しか写っていないことに注意)、今は少しでもお金が欲しい。ただ、あまりにも重過ぎて、古本を売るように簡単には売りにも行けない。
今日はこのアンプに1年半振りに電源を入れた。聴いたのは、Led Zeppelinのファーストアルバム。もちろん「レコード」。何年も音を鳴らしていなかったからか、あまり良い音が出ない。ずっと音を出してないと、スピーカーの振動部分が硬化してしまってこうなるらしい(逆に言えば、何日か(何週間か?)鳴らしていれば、音は良くなってくるのだと思う)。アンプもずっと使ってないと、「電気信号の通りが悪くなる」って聞いたけど本当かなぁ。
Led Zeppelinのファーストは考えてみると少々不思議なアルバム。ブリティッシュハードロックの始祖みたいなバンドなのに、音はそれほどハードではなく(もちろん、アレンジは斬新だけど…)、ブルース色が結構強い。関係ないんだけど、思わず押入れから「Bill Lawrence 森高千里モデル」(中古で3万5000円で買ったものだが、元は12万円もするギター)をこれまた1年半振りに引っ張り出してきた。リッケンバッカー型のシェイプが珍しく、気に入っている。でも、微妙に弾きづらいんだよなぁ、実は。立つとバランスが悪い。
Led Zeppelinの後、ふと、あるレコードが聴きたくなった。父から20年くらい前に借りてそのまま借りっ放しのレコードで、Modern Jazz Quartetのピアニスト、John Lewisのソロ名義の作品。バッハの平均律をモチーフにしたもので、これまたお気に入りの1枚。
アルバム全体が不思議な穏やかさに包まれた作品で、特にA面の2曲目がお気に入り。何だかフワフワしていて、「天国みたいだなぁ」といつも思う。10年くらい前にも、今日のような穏やかな日の午後にこの曲を聴いて、「案外『死後の世界』って、こんな風に穏やかなものなのかも」なんてよく思っていた。このアルバムからは、生への執着みたいなものが感じられず、何もかも諦めてしまって、しかしそのことによってむしろ得られた心の平安、みたいな雰囲気が醸し出されている。もし睡眠薬自殺するとするなら、このアルバムを聴きながら眠りにつきたいと思う。

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