先月末に突然陥った激しい鬱状態からは脱却できたと思うのだが、いまだ泥沼に浸かっているようなヒドい無気力状態が続いている。こういうときは思い切って何もしない方がいいのかもしれないが、鬱状態や無気力状態が続くことそのものが苦痛なので、結局何かしてしまう。
昨夜は普段聴かないNHK-FMをつけてみた。そしたら、まぁ、驚くような経験をした。月曜夜11時からやっている「
きたやまおさむのレクチャー&ミュージック」という1時間番組を聴いたのだが、これはザ・フォーク・クルセダーズの元メンバーで精神科医でもある北山修氏が様々な心の病について解説しつつ音楽をかけるという趣旨の番組だった。
これが凄かった! 話の内容は拒食症についてだったのだが、テーマとは何の関係もない松田聖子ばっかり8曲もかけられたのだ。80年代の懐かしい曲もかけられており、ある意味、
松田聖子特集と拒食症特集を同時に行う、というアクロバチックな内容。
…、NHKってやっぱり必要だと思う。北山氏のような著名な精神科医がラジオで様々な精神疾患に関して素人向けに解説する、という番組には公益性があると思うし、でも、それだけじゃあ堅苦しい番組になっちゃうよなぁってところを松田聖子と組み合わせて帳消しにしてしまうなんて!
ところで、番組が始まって1曲目の『風立ちぬ』(1981年 作詞:松本隆/作曲:大瀧詠一)を聴いていて、魔女に誘い込まれるような余りの懐かしさに自分の中の何かが壊れてしまいそうになった。突然大声で笑い出したいような衝動に突き動かされた。(今から考えてみると、この曲、いかにも大瀧詠一という大陸的なメロディー&アレンジ。僕は大瀧詠一が結構好きなので楽しんで聴いた。)
松田聖子という人は僕にとって80年代前半を象徴する一番の人物なのだけど、アイドルとしての彼女については僕は軽く嫌悪していた。彼女の戦略的な「ぶりっこ」振りが鼻についたのだ。どちらかと言えば、僕は素っ気無い中森明菜派だったね。
そういうわけで、松田聖子の懐メロを聴いたって何の感慨も起きないだろうと思っていたのだが…、
えええぇぇぇっっっ!!! こんなところに秘密の扉がある!
例えて言えば、そんな感じの「気付き」を僕にもたらした。
それは、自分でもその存在を知らなかった、自分の心の中の秘密の扉だったのだ。少なくとも小学校の高学年や中学生時分の僕には封印した過去なんて何もないと思っていたのだけど、あ、こんなところにドアがある、しかもこのドアを開けたらたぶん大変なことになる、そう直感するに充分なほど重厚な扉が心の片隅(と言うか、結構ど真ん中)に発見されてしまったのだ。暗闇の中、ライトを当ててみたら、そこに埃を被った立派なドアがあった。そんな感じ。
きっとその扉を開けたって、何も出て来やしないのだ。だけど、そこに秘密の部屋があり、秘密の扉が隠されていた、ということ自体を知らなかったもんだから、まさに驚愕の事実。しかもそれを松田聖子に見つけられてしまうとは…。
生きていると知らず知らずのうちに、心にヒダみたいなものがたくさんできているんだな、そのヒダの存在に30年も経ってから気付くなんて、と悟った秋でした。

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